創業1734年、丹波篠山の黒豆卸〈小田垣商店〉が〈新素研〉によりリニューアル。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

創業1734年、丹波篠山の黒豆卸〈小田垣商店〉が〈新素研〉によりリニューアル。

江戸後期から大正初期にかけて建てられた10棟のうちの5棟の改修を終え、新しくショップ兼カフェを設けて4月14日にリニューアルオープンした〈小田垣商店〉。改修のコンセプトは「建物を江戸時代に戻すこと」でした。

この度改修の第一弾を終えてリニューアルオープンした〈小田垣商店〉。手がけたのは杉本博司と榊田倫之が率いる〈新素材研究所〉。
外壁はわずかに青緑色がかった白壁で、京都伏見でとれる「浅葱土」を混ぜている。真っ白い壁は格が高いので、商人の家は遠慮して浅葱土を混ぜるという習わしを踏襲した。
庭と建物、駐車場を含めた敷地は約1,000坪、通りに面した長い塀は35m強も続く。
黒豆の中でも最高級品と言われる丹波篠山産黒豆の卸業を明治元年から生業とする〈小田垣商店〉。現在の建物はもともと造り酒屋だった屋敷を昭和期に入手したものだ。最も古い部分で江戸後期の建造物を含む10棟の建物は平成19年に登録有形文化財の指定を受けているが、長い間増改築を繰り返し、近代化とともに建物の本来の良さが損なわれていたという。また強度にも問題があったため、耐震補強をしながら徐々に改修することになり、その第1期工事として5棟の改修が完了した。改修設計を手がけたのは現代美術作家・杉本博司と建築家・榊田倫之が主宰する〈新素材研究所〉だ。

「度重なる増改築で改変されてしまった建物を、できるだけ古い時代の状態に戻すことを念頭におき、『時代を還る建築』をコンセプトに取り組みました」(杉本)
玄関(写真奥)から細長く続く、いわゆる「通り庭」の床には、四国産の古い町家石を敷き詰めた。微妙に異なる石種が床の表情となる。町家建築ならではの高い天井の小屋組みや梁は江戸後期のまま。
たとえば玄関から奥へと続くスペースの床には京都の商家で使われたアンティークの町屋石を敷き詰めて、あたかも時代を経た味わいを感じさせる。壁は昔ながらの土壁を左官の名匠・久住章氏に依頼し、極力無個性に塗り上げてもらった。

「偶然にもこの近くに久住さんがお住まいとのことでお願いしたのですが、スサの入れ方や乾いたときのヒビの入り具合などが絶妙なのです。今までいろんな左官屋と仕事をしましたが、今回は抜群の仕上がりです」(杉本)

土間の土壁には、現在では伐採が不可能な屋久杉の板に「黒まめ」の文字が踊る看板が。これはNHK大河ドラマ「青天を衝け」のタイトル文字の揮毫(きごう)も務めた杉本の自筆。江戸時代の商家へといざなうような遊び心あるしかけだ。また、黒豆のディスプレイには古い棗(なつめ)形の手水鉢を用いている。

「江戸時代の風情の建築に戻した」というだけあって、一見したところ特徴的な何かが付け加えられているわけではない。しかし「元に戻す」ことの裏には目に見えない様々な苦労があったという。

「改修とはいえ、登録有形文化財に指定されているのであまり極端な改変はできません。耐震面においても、単に補強の鉄骨を打ち付けるような乱暴なやり方ではなく、基本的には壁を増やすことで強度を担保するようにしました。構造がしっかりしていないと、いくら化粧をしたところで建物として成り立たないので、見えない部分の建物を整える作業に設計全体の7〜8割の労力を費やしました」(榊田)
玄関入ってすぐの土間の壁は、MOA美術館の改修にも取り入れた黒豆を想起させる黒漆喰で塗った。軒先にかかる「茶」の丸看板は、杉本が青山の骨董屋で偶然見つけたもの。
貴重な屋久杉の一枚板に杉本の筆で「黒まめ」と記した看板が客を出迎える。
もう一つの見どころは、杉本が手がけた庭だ。

「以前はいろんな木が植えられたまま放置された庭で、奥にある茶室の坪庭と、手前の庭に分かれていたのですが、これを一つにつなげて石の庭にしました。加茂真黒石(かもまぐろいし)を黒豆に見立てて、白河石などと取り合わせて延段にし、『豆道』と名付けました。また、中国で文化大革命の頃まで牛馬に引かせて耕作地の地ならしに使った円筒状の石を立てて、縄文時代の遺跡である環状列石ふうに組んでみました。以前は母屋からトイレをつなぐ屋根付きの渡廊下があったのですが、トイレを撤去して渡廊下だけにし、能舞台の橋がかりに見立てています。将来的にはここで能や舞などのイベントも出来そうです。この庭はいろんな時間軸が交錯する『多機能型枯山水』とでも呼べるでしょうか」(杉本)
杉本が再構成した庭。ジグザグに走る延段に使われた加茂真黒石は現在ではもう採取できず、古建築が解体される際にモルタルと共に出てくるものを1枚ずつ剥がして再利用した。橋がかりに見立てた渡廊下は、以前あった壁を撤去し底を一体化させ、元の瓦屋根を銅板葺きに改めた。
既存の渡廊下に板を継ぎ足して幅を出し、能舞台の「橋がかり」に見立てた。
今回の改修では以前よりショップスペースを拡張して、丹波篠山産の黒豆や大納言小豆のほか、煮豆の瓶詰め、豆を用いた菓子、黒豆茶などの加工食品もパッケージを刷新して販売される。さらには丹波の特産品である布や陶器類も販売する。

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