【東京・御茶ノ水】創業当時のアール・デコの意匠が蘇った〈山の上ホテル〉|甲斐みのりの建築半日散歩 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

【東京・御茶ノ水】創業当時のアール・デコの意匠が蘇った〈山の上ホテル〉|甲斐みのりの建築半日散歩

長い年月をかけて少しずつ薄れていったアール・デコ調の意匠が、2019年12月のリニューアルにより再構築された、1954年創業の老舗ホテル〈山の上ホテル〉へ。旅するような心持ちで静かに名建築を愛で、東京・御茶ノ水界隈を歩いてみると、ありふれた日常の風景が輝いて見えてくる。

●文豪が愛した丘の上のホテルがリニューアルし、創業当時の姿に。

左右対称でジグザグの階段状に立体的にせり上がる塔が特徴的な〈山の上ホテル〉の外観。35の客室はすべて異なるレイアウト。こぢんまりとしたホテルながら7つのレストラン&バーを備える。
神田駿河台の小高い丘に建つ〈山の上ホテル〉。1954年の開業当時、戦後の復興期だった東京には、わずかに4~5のホテルがあるのみで、まだ一般的にはなじみの薄い存在だった。そんな中、創業者が文学に縁深い家系だったことや、出版社や古書店が軒を連ねる神田や神保町に近い立地、なにより別宅のような居心地のよさが知れ渡り、川端康成、三島由紀夫、池波正太郎などに愛されたほか、多くの作家が部屋にこもって執筆活動するようになった。わずか35室のみの小さな独立系ホテルが、67年の長きに渡り愛され続けているのは、ホテルを訪れる人々が、ここにしかない文化的な香りを大切に感じとっているからだろう。
ライティングデスクもあり、静かに時を過ごせる〈山の上ホテル〉1階のロビー。
かつて本館と向かい合わせであった別館のロビーに飾られていた、スウェーデンの陶芸家、リサ・ラーソンのライオンのオブジェ。現在は本館のロビーの窓際に。
〈コーヒーパーラーヒルトップ〉や客室で使用されているオリジナルのランチョンマットは、横浜元町の老舗〈近沢レース〉製。レース部分に「HILLTOP HOTEL」の文字があしらわれている。
佐藤オオキ氏率いるデザインオフィス〈nendo〉がデザインしたギフトパッケージ。インク瓶をイメージした容器にはパールチョコ、本型の箱には焼き菓子など「書斎」をイメージ。オンラインショップでも購入可能。
アール・デコ様式の建物を設計したのは、アメリカ人建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。元々は、〈東京都美術館〉の設立に貢献した九州の石炭商・佐藤慶太郎が、生活改善と社会改良のため設立した施設「佐藤振興生活館」の本部ビルとして1937年に建設された。戦後、GHQに接収された時代は「HILLTOP HOUSE」と呼ばれ、接収解除を機にホテルとして生まれ変わった。そのとき創業者は、“丘の上”をあえて“山の上”と訳したが、実際に風通しのいいホテルには、都心にいながら山頂の澄んだ空気を吸い込むように、和やかな雰囲気が漂っている。
カウンター9席のみの英国風バー〈ノンノン〉。馬毛のスタンド椅子が心地いい。設計者・ヴォーリズにちなんで名付けられた「ドクター・ヴォーリズ・リバイバル」や「ザ・ヒルトップ」など、オリジナルのカクテルを味わえる。
〈ホテルショップ ヒルトップ〉では、ホテルのシェフパティシエが作る生洋菓子とペストリーを扱う。
山の上ホテルが創業する前、〈佐藤振興生活館〉時代の写真。2019年12月のリニューアルにより、床・天井・階段などにアールデコの特徴が色濃く残るこの当時の姿が蘇った。
そんなホテルも長い年月を経て、創業時のアール・デコの意匠が薄れていたため、本来の姿を再構築する形で2019年にリニューアルをおこない、同年12月に再オープンを果たした。竣工時の図面を元に設計を担ったのは、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが立ち上げた建築事務所〈一粒社ヴォーリズ建築事務所〉。床や天井や階段、レストランなどの空間にも往時のアール・デコのエッセンスを注ぎ込み、新たな空間を創出。建築家・佐藤秀三が創業し、文化財などの修復も請け負う〈佐藤秀〉が建築工事を、横浜クラシック家具〈ダニエル〉が家具の製作・修繕を手がけている。
窓の外に坪庭が広がる、庭付きスイートルーム403号室。山口瞳、田辺聖子、池波正太郎などがよく利用していた。1室55,000円〜。
庭付きスイートルーム403号室の寝室。“簡素な平塗りのシックイ壁、飾り気のないジュウタンとカーテン、ベッドの白いシーツ、桜の木肌を生かしたテーブルと椅子。情報と色彩過多の街並に、一服の清涼剤のような安息地”であることが約40年前からの客室のコンセプト。
ライティングデスクに一輪挿しのバラを飾るのが山の上ホテル流のおもてなし。池波正太郎は執筆時や趣味の絵を描くときは和室、息抜きするときにはこの庭付きスイートルームと使い分けていた。
ホテルの創業時から、備品の文字や絵など数々のデザインを手がけた遠峰健によるドアノブプレート。ドアノブの位置が高いのは、戦後、米軍に接収され陸軍夫人部隊の宿舎として使われていた名残り。
和室にベッドを配した和洋折衷のデラックスシングル・ダブルルーム。池波正太郎がそうしていたように、座卓と座椅子を貸し出ししてもらえる。1名21,000円〜。
宿泊するのはもちろんのこと、カフェやレストラン、ロビーのショップを利用するだけでも、ゆったりとした時間が流れる中、旅気分を味わえる。今こそ身近に存在する名建築や、そこに宿る物語を大切に見つめ直したい。
総支配人の記憶を頼りに復刻した気品に溢れる伝統のデザート「山の上ホテルのプリンアラモード」1,430円。プリン、アイスクリーム、白鳥のシュークリーム、全て手作り。〈コーヒーパーラーヒルトップ〉で提供。〈コーヒーパーラーヒルトップ〉11時〜21時(当面は11時30分〜19時LO)。
細やかな意匠が愛らしい〈コーヒーパーラーヒルトップ〉。
〈コーヒーパーラーヒルトップ〉やロビーなど、館内の各所には、山の上ホテルを定宿にしていた作家・池波正太郎の絵画が飾られている。

〈山の上ホテル〉

東京都千代田区神田駿河台1-1 TEL 03 3293 2311。御茶ノ水駅、新御茶ノ水駅、神保町駅から徒歩約5分。

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