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水のような空気のような、書体設計士・鳥海修さんの文字。

『カーサ ブルータス』2022年3月号より

| Design | a wall newspaper | photo_Noriko Yoshimura   text_Housekeeper

「ヒラギノ」「游書体」などの書体を手がけてきた、書体設計士・鳥海修さんの展示が開催中です。

高速道路の標識に使われている、視認性の高いヒラギノフォント。
高速道路の標識に使われている、視認性の高いヒラギノフォント。
「游ゴシック体 Pr6 N R」の全グリフでできた”文字のうみ”が広がる展示。総数は23,058字(!)。人の手で一文字ずつデザインされた。
「游ゴシック体 Pr6 N R」の全グリフでできた”文字のうみ”が広がる展示。総数は23,058字(!)。人の手で一文字ずつデザインされた。
100以上の書体を設計した鳥海さん。それぞれのフォントを使った書籍も展示されている。
100以上の書体を設計した鳥海さん。それぞれのフォントを使った書籍も展示されている。
高速道路の標識に使われている、視認性の高いヒラギノフォント。
「游ゴシック体 Pr6 N R」の全グリフでできた”文字のうみ”が広がる展示。総数は23,058字(!)。人の手で一文字ずつデザインされた。
100以上の書体を設計した鳥海さん。それぞれのフォントを使った書籍も展示されている。
iPhone、高速道路の看板、Word、そして『カーサ ブルータス』の本文。私たちが日常で何げなく目にする文字は、人の手によって一文字ずつデザインされている。その多くは書体設計士・鳥海修さんが関わったものだ。

現在〈京都dddギャラリー〉では鳥海さんの仕事を振り返る展示が開催されている。本文書体にこだわってきた鳥海さんは「水のような、空気のような」という展示タイトルが表すように、いつの時代も読みやすく、飽きられず、美しい書体の制作を試みてきた。
文字作りを米作りになぞらえ、スティーブ・ジョブズも愛した「ヒラギノ明朝体W3」の48ミリ原字を田んぼに。
文字作りを米作りになぞらえ、スティーブ・ジョブズも愛した「ヒラギノ明朝体W3」の48ミリ原字を田んぼに。
例えば「雨」は、縦線の太さが全て微妙に異なっている。一見わからない、気の遠くなるような微調整のたまものだ。
例えば「雨」は、縦線の太さが全て微妙に異なっている。一見わからない、気の遠くなるような微調整のたまものだ。
田んぼを自転車で走る鳥海さんも。
田んぼを自転車で走る鳥海さんも。
山形県で生まれ、鳥海山の麓で育った鳥海さんの子供時代を漫画で紹介。
山形県で生まれ、鳥海山の麓で育った鳥海さんの子供時代を漫画で紹介。
文字作りを米作りになぞらえ、スティーブ・ジョブズも愛した「ヒラギノ明朝体W3」の48ミリ原字を田んぼに。
例えば「雨」は、縦線の太さが全て微妙に異なっている。一見わからない、気の遠くなるような微調整のたまものだ。
田んぼを自転車で走る鳥海さんも。
山形県で生まれ、鳥海山の麓で育った鳥海さんの子供時代を漫画で紹介。
「人の手でデザインする以上、文字には必ずその人の人間性が宿る。個性を抑えた文字を作るのはとても難しいが、そうして作られた書体がインフラとなり、文化の礎となる」という鳥海さん。展示では文字作りを米作りにたとえ、ヒラギノ明朝体の原字1980字が田んぼのように並んでいる。太さは異なるが、かつてスティーブ・ジョブズが自ら選んだmacOSとiOSの標準搭載フォントだ。

「2000年のApple新製品発表会で、ジョブズがヒラギノ明朝体W6の『愛』をスクリーンに映して一言『Cool』と声を上げたのは、昨日のように思い出せます」

現在、一つの書体で設計される文字は約2万3000字。それらをわずか4〜5人で分担し、一文字ずつ作る。特に仮名については手書き感を残すために細い筆でひたすら太さやカーブを整える手作業だ。中でも制作が難しい文字を尋ねると、意外なものだった。

「『麤』などの難読漢字と思われがちですが逆です。簡単なものほど難しく、特に『乙』『為』などは自由度が高くてやりがいがありますね。一番好きな字は『ふ』。4画に筆の運びがあり、空間の使い方が試されます」
谷川俊太郎の詩のために設計された書体「朝霞」の設計工程。試行錯誤の痕跡が垣間見える。
谷川俊太郎の詩のために設計された書体「朝霞」の設計工程。試行錯誤の痕跡が垣間見える。
細かい赤字に加え、左端の「素直に→縮こまらずに素直に」という指示書きが印象的だ。
細かい赤字に加え、左端の「素直に→縮こまらずに素直に」という指示書きが印象的だ。
書体作りの最終段階では人の手で微調整。極細の筆(品印)を使って線の太さやカーブを整えていく。
書体作りの最終段階では人の手で微調整。極細の筆(品印)を使って線の太さやカーブを整えていく。
何種類もの筆を使い分ける鳥海さんの作業机を再現。
何種類もの筆を使い分ける鳥海さんの作業机を再現。
谷川俊太郎の詩のために設計された書体「朝霞」の設計工程。試行錯誤の痕跡が垣間見える。
細かい赤字に加え、左端の「素直に→縮こまらずに素直に」という指示書きが印象的だ。
書体作りの最終段階では人の手で微調整。極細の筆(品印)を使って線の太さやカーブを整えていく。
何種類もの筆を使い分ける鳥海さんの作業机を再現。
これまで100以上の書体を設計してきた鳥海さんだが、今後一つやりたいことがあるという。

「今、世の中には3000ほどの書体がありますが、それらをデザイナーがパソコンに入れても選びきれないんじゃないかと思うんです。結果適当に選ばれてもいいものはできない。それはタイプデザイナーの怠慢のせいだと思います。

だから使用サイズごとに基準となるような本文書体を作ってみたいです。まずはこれを使っていれば大丈夫というもの。それを基にもっと明るい、軽いなどイメージを決められる、ものさしのような書体群を作るべきだと思います。ただすべて一人で設計するとなると、僕は生きていない計算になるんですけどね……(笑)」
鳥海 修

鳥海 修

とりのうみおさむ 1955年生まれ。本文書体を中心に100以上の書体開発に携わる。著書に『文字を作る仕事』(晶文社)、『本をつくる』(共著、河出書房新社)など。

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