CULTURE
11月、草間彌生の半生をたどる映画が公開!
September 29, 2019 | Culture, Art | casabrutus.com | text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
世界中の美術館で個展を開き、数百万もの観客を魅了している前衛芸術家、草間彌生。彼女は1957年から1973年までアメリカに滞在、それまでにない新たな芸術の領域を切り開きます。そのアメリカ時代にフォーカスしたドキュメンタリー映画が公開! 知られざる草間彌生像に迫ります。
2018年の松本市美術館や2017年の〈国立新美術館〉での個展で鮮烈な印象を残した草間彌生。その他に日本を含む世界各国での個展やグループ展は数え切れないほどだ。屋外に設置されたパブリックアートも多い。ことに近年の人気は高く、展覧会ではどの会場にも多くの人が詰めかけ、長い行列ができることも珍しくない。
11月に公開されるドキュメンタリー映画『草間彌生 INFINITY』の監督、ヘザー・レンズも草間のアートに魅了されてしまった一人。彼女が草間本人はもちろん、彼女と密接に関わってきたキュレーターや美術史家、アーティストらにインタビューを重ね、過去の貴重な写真や映像を探し出して作ったのがこの映画だ。
11月に公開されるドキュメンタリー映画『草間彌生 INFINITY』の監督、ヘザー・レンズも草間のアートに魅了されてしまった一人。彼女が草間本人はもちろん、彼女と密接に関わってきたキュレーターや美術史家、アーティストらにインタビューを重ね、過去の貴重な写真や映像を探し出して作ったのがこの映画だ。
日本の観客として特に見逃せないのは、草間のニューヨーク時代のエピソードだ。渡米にあたって親身なアドバイスをしてくれた画家のジョージア・オキーフや、草間に熱烈な恋をしたジョゼフ・コーネルとの交友はよく知られているけれど、彼らとやりとりした手紙からはより深い心の交流が伺える。特にコーネルの、愛らしいコラージュがついた手紙の「君は僕のプリンセス」といった文章はコーネルの詩的な作品を彷彿とさせる。黒髪をおかっぱにした着物姿の草間は、当時のニューヨーカーにとってはもちろん、今の私たちにも新鮮に映る。
幼少のころから画家を目指し、両親を説得して画学校に通った草間は渡米前に「これからはもっといい絵を描くのだから」といって、それまで描いた2000枚もの絵を焼却してしまう。実際に彼女が作り出したものは唯一無二だ。無限に広がる網、布で作った彫刻、体中に水玉をつけた男女によるパフォーマンス、合わせ鏡の原理で果てしなく広がる部屋。それらはアンディ・ウォーホルやクレス・オルデンバーグら現代のアメリカを代表するアーティストらにも影響を与える。しかし、草間に影響を与えたアーティストはいなかったのだ。
草間の作品だけを見ていると、強い草間像を思い浮かべるかもしれない。確かにそれは彼女の一つの側面ではあるけれど、映画では苦闘の日々にもスポットが当てられる。渡米前に松本で開いた初めての個展のこと、ニューヨークで絵が売れず極貧の生活を送ったこと、画廊で扱ってもらおうと門前払いされながらも何度も通ったこと、体調を崩して帰国し、病院からアトリエに通うようになったこと。そもそも彼女が育った家庭環境が両親の不和など、草間のような繊細な少女には耐えがたいものだった。草間はそれらを蹴散らしてここまで来たのではなく、ときに息も絶え絶えになりながらなんとかサバイバルしてきている。映画はそんな側面もあますところなくとらえている。
50年を超える画業を経て今もなお、衰えることのないパワーで制作に打ち込む草間彌生。その輝きの源泉がどこにあるのか、新しい発見をさせてくれる映画だ。
50年を超える画業を経て今もなお、衰えることのないパワーで制作に打ち込む草間彌生。その輝きの源泉がどこにあるのか、新しい発見をさせてくれる映画だ。
『草間彌生∞INFINITY』
11月22日(金)から、〈渋谷PARCO〉8F〈WHITE CINE QUINTO〉ほか全国ロードショー。