攻めるフレンチ〈オード〉|寺尾妙子のNEWSなレストラン | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

攻めるフレンチ〈オード〉|寺尾妙子のNEWSなレストラン

料理もインテリアもエッジの効いた〈Ode(オード)〉は、フレンチの大御所シェフたちからの評価も高かった前〈シック・プッテートル〉シェフ、生井祐介が独立して開いた店だ。

「シグネチャーです」

差し出された「秋刀魚 ブーダン 茄子」は、器も料理も一面グレーというひと皿に驚く。店内はカウンター、壁、天井、床、スタッフの制服もみんなグレーだ。

極薄のグレーの破片を口にしてみる。スーッと口の中で溶けながら、サンマの風味が弾ける。卵白をベースにサンマの頭と骨にアンチョビを加えて焼いたメレンゲだ。下に隠れているのはサンマのコンフィと炙り牛肉のタルタル。

「一緒に召し上がってください。つなぎにサンマのワタ、豚の背脂と血、キャラメリゼした玉ネギを合わせたサンマのブーダンノワールのピュレが入っていますから」

タンパク質が変性しない38度という低温の油でコンフィしたサンマも軽く炙った牛肉も、火は通っているものの、フレッシュな質感ゆえ、素材の持ち味がストレートに伝わってくる。サンマのブーダンノワールもクセを感じさせず、全体をまとめる、いいつなぎ役となっている。
色味を抑えた店内はカウンター13席と半個室1室(6席)、個室1室(4席)。
火を入れた牛肉に生イカがのった一品という当時としてはセンセーショナルだった「肉と魚を合わせた料理」をシグネチャーとしたのはフランス料理会の巨匠、ピエール・ガニェールだったが、10年以上経った今でも、魚と肉を一体化させる料理は珍しい。

グレー一色の「無」から銀色に輝くサンマや艶やかに赤い肉という「生」が現れるさまは、インスタレーションのようでもある。
「ドラ◯ン ボール」。中身は泡立てた生クリームを合わせた濃いめのオマールのビスク。7個集めれば、願いは叶う!? 料理はすべてコース13,000円より。
生井シェフ、かなり攻めている。オーナーとして独立した今、余すとこなく自分を表現できるようになったのだろう。前とは次元が違う。

1品めに出てくる金の宝珠型容器。ふたを開ければ、顔を出す「ドラ◯ン ボール」。舌にのせれば、カカオバターのコーティングがゆっくりと溶け出し、ジワジワとオマールの風味が広がっていく。楽しいアミューズでの始まりは幸先がいい。
「大根 大根餅 烏賊」。和包丁で薄く桂むきしてシャクシャクした食感に仕上げた大根で大根もち、豚バラの煮込み、アオリイカのソテー、銀杏を包んでカネロニ仕立てに。目の前でシナモンや八角の風味がチャイニーズっぽい、豚のスープをかけて完成。
コースは最後の「小さなお菓子」まで12、13品。楽しい一品があるかと思えば、ハーブや花をあしらった「大根 大根餅 烏賊」のようなロマンティックなひと皿も挟み込まれる。店名の〈オード〉とは叙事詩という意味。生井シェフは25歳で料理人を志すまでは音楽で身を立てるつもりだったという。