三浦海岸の新たな“無人直売所”からはじまる。アート・デザインで拓くローカルの未来。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

三浦海岸の新たな“無人直売所”からはじまる。アート・デザインで拓くローカルの未来。

クリエイティブディレクターの藤原大と〈株式会社 日立製作所〉が関わる野菜の無人直売所が、三浦海岸に誕生。この直売所を第一歩にはじまるプロジェクトの展望を、ホンマタカシが撮り下ろした三浦市の美しいランドスケープとともにご紹介します。

県道を挟んで三浦海岸の目の前に誕生した無人直売所〈shop PEEKABOO〉。
無人直売所〈shop PEEKABOO〉の内部には採れたての野菜が並ぶとともに、〈日立〉が製作した新たな決済端末が設置されている。
この日の商品は「かぶ」と「セロリ」。新鮮かつ端正な品々が、都心のスーパーと比べて驚くほど安価で並んでいる。
三浦海岸。海の向こうには房総半島が見渡せる。
例えばこの日のかぶ、1束150円。新鮮で品質の高いかぶとして驚くほどのこの安価が、この直売所内に導入された独自の“決済端末”を使うと、さらに安くなることもある(あるいは、すこしだけ高くなることも)。目の前に三浦海岸を望む県道沿いに昨年11月に誕生した、野菜の無人直売所〈shop PEEKABOO〉。直売所らしからぬ“小屋”のつくりで、「三浦かぶ」と大きく書かれた八百屋のような暖簾が目をひく。自身もかぶ農家であると同時に、近隣の農家の作物の“代理販売”も引き受ける〈石井農園〉が扱う、採れたての野菜が並ぶこの無人直売所には、じつはクリエイティブディレクターの藤原大と〈日立〉という、異例のチームが関わっている。
〈shop PEEKABOO〉内に設置された決済端末。
特徴は、大型のタッチパネルと、その両脇に並んでいる、それぞれ異なるメッセージの書かれた“ふきだし型の置物”を使った決済端末。手順はカンタン。まずは値札にしたがって、購入する野菜の合計金額を選択。ここまでは何の変哲もないが、次の画面に進むと、“ふきだし”を3つ選んで、画面下部のくぼみに置くという、一見決済とは関係のないような案内が出る。

「はじめて来ました」「10倍の値段で買います!」「海に近くていいですね」「三浦のこれからが心配です…」「私、今日誕生日です!」

そんなメッセージが印字された30個以上ある“ふきだし”を機械に置くと、それぞれに対する〈石井農園〉からの返事が表示される。

「また来てくれるの待ってます! 4円まけとくよ」「三浦を応援してもらっていいですか? 10円もらっとくね」

選んだ“ふきだし”によって、作り手のさまざまな声が表れるとともに、値段が上がったり、下がったりーー。QRコード決済にも対応している「キャッシュレス」の直売所であるうえ、Amazonをはじめテック企業が次々と新たな試みを行なっている「無人販売」という形態。一方で、メッセージを選ぶ“ひと手間”を要し、買い手と売り手の思いがほんのひと言だが交わされる。また、八百屋が常連のお客にする“値引き”のようなかたちで、価格まで変動してしまう。新しくて、古い。効率的で、非効率。そんなアンバランスさが興味を引くこの小屋の背景には、地方都市が直面する切実な事情と、その未来に一石を投じる企みがある。

・〈shop PEEKABOO〉独自の決済端末の使い方。

まずは購入した野菜の値札の金額をタッチパネルで選択。
“ふきだし”を3つ選ぶように案内が出るので、画面の左右の棚から好きなものを選ぶ。
“ふきだし”を選んで置くと、印字されたメッセージに対する農家からの返事が画面に表示される。
“ふきだし”の内容に応じて値段が上がったり、下がったり、あるいはただイラストが表示されるだけのものも。
値段の変動が反映された最終的な野菜の値段が表示される。現在の仕様では、1の位は切り捨てに。
支払いは写真の箱に現金を投入するか、QRコード決済を使用(注・隣接する〈PEEKABOO〉の加工場が無人の際には使用できない場合も)。
都心から電車や車で1時間ほどという好アクセス、三崎のまぐろや三浦大根といった名産品、そして海水浴にも適した美しい海岸がありながらも、三浦市は人口減少に苦しんでいる(2014年には日本創成会議・人口減少問題検討分科会によって「消滅可能性都市」であると推計されている)。

若い働き手が減ることでさらに長時間労働化する農家の多くは、それでも採算が取れておらず、コンビニで働いた方が時給が高いというのが現状。しかしながら、親から農地を相続する際に受ける納税猶予(農業を引き継ぐ場合に限って、農地の相続税が猶予される制度)によって、離農することも難しい。また農家は個人事業主である以上、70代、80代と年齢を重ねていても、健康保険ほか年間の多くの支出も避けられない。そうした状況では、子どもたちに農家を継ぐことをおいそれと勧めることもできない。

そんな三浦の農家の実情を当事者の立場から変えていくために、〈石井農園〉の石井亮さんは、6年ほど前に新たに“かぶ”の生産をはじめるとともに、近隣の農家の作物の代理販売も引き受ける〈PEEKABOO(ピーカブー)〉を立ち上げた。大根と異なり年に2〜3回収穫できる上に売値もより高い“かぶ”は、サイズが小さいこともあり、高齢化が進む5年、10年先を見据えた時、持続的に生産していける。また、作物の品質管理やスーパーへの営業といった多くの農家が苦手とする工程を石井さんが一括して引き受けることによって、近隣の農家の利益も最大化させることができる。

そうした農家として新たな歩みをはじめたこの〈石井農園〉を、フィールドワークの過程で“たまたま”発見したのが、藤原大と〈日立〉のビジョンデザインを担うチームが取り組む「フューチャー・リビング・ラボ」のメンバーだった。

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