サラ・バートンとスミルハン・ラディックが創り出した幻想の森。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

サラ・バートンとスミルハン・ラディックが創り出した幻想の森。

『カーサ ブルータス』2020年10月号より

2020年9月にオープンした〈アレキサンダー・マックイーン 表参道店〉は、その独特の空間が話題を集めた。完成までのストーリーをクリエイティブ・ディレクターのサラ・バートン、建築家のスミルハン・ラディックが語ってくれました。

商品が展示される前の1階フロア。壁と床、什器にはウォールナットとオークを用いている。彫刻作品のようなオニキスの台座の上にはバッグなどが置かれる予定だ。
表参道の並木が店内へと続き、トルソーという形に変化した木々の連なる森の中へと入ってゆく。

アレキサンダー・マックイーンの日本初となる新コンセプトの旗艦店は、不思議な物語世界を思わせる。ロンドンの店舗に続き、クリエイティブ・ディレクターのサラ・バートンと建築家のスミルハン・ラディックがコラボレーションした空間は、木と石を多用したオーガニックなものだ。木々の緑が映り込むガラス張りの店舗について、ラディックは「東京の空と美しい表参道の木々がアレキサンダー・マックイーンの架空の風景の一部として見えます」と述べる。
直線と曲線が混じり合う階段。
2階に置かれたハンス・J・ウェグナーの《シェルチェア》とテーブル《CH417》。ライトはミゲル・ミラの《セスタ》。
フィッティングルームのテキスタイル。
インスピレーションソースとなったのは、ラディックがチリで設計した〈直角の詩のための住宅〉だ。「スミルハンのチリの自宅について彼がまとめた美しい本に出会い、彼の作品に惚れ込んでしまいました」とサラは語る。「彼が使っている素材はとても自然なもので、妻のマルセラ・コレアのアートワークも空間に取り入れられていて、とてもパーソナルな感じがしました。これまでリテールストアのコンセプトに取り組んだことがない、新鮮な感覚を持った人とコラボレーションするというアイデアが、とても気に入りました。スミルハンはスタジオで私たちと一緒に多くの時間を過ごし、どのようにコレクションを展開しているのかを見に来ました。シェットランドのショーに出ていた女の子たちが森の中を歩いている写真を彼が見せてくれて、そのイメージにはオーガニックで自由な空気が漂っていました。私たちは、同じようなイメージにコレクションを置いたとき、うまく共存できると考えました。 ショーの物語性を店舗のコンセプトに折り込み、自然な空間の中で服が生き、呼吸できるようにしたのです」とサラは言う。

サラが惚れ込んだ繭を思わせる雰囲気を店舗においても踏襲している。「店舗ではあまり使用されない素材を使用して、森や森林に入るときに最初に感じる感情と肌寒さを伝えようとしました。素材自体は重要ではありませんが、重要なのは、使う素材でどのような雰囲気を作りたいかを明確にすることです」とラディック。

素材の多くはロンドン店と共通しており、壁や天井に配したコットンクリートは新コンセプトの店舗のために開発されたものとなる。これは過去のコレクションから作ったリサイクルコットンとプラスターを混ぜたもので、「工業用、手芸用の素材なので、正確に繰り返すことができない、完璧ではないものだからこそ使いたかった」とラディックは言う。気泡緩衝材を使い型取りしたコットンクリートは、凹凸も不規則で、ポコポコしたディテールが、空間に柔らかなニュアンスを添えている。

サラは、「明るい木と暗い色調の木、ウォールナット、オークなど自然からの素材を使用し、細かい部分には伝統的な技術が用いられていますが、店舗の空間は革新的でもあります。各フロアにはガラスのシリンダーが通されており、光と反射が取り込まれます。また、新しく開発したコットンクリートは、過去のコレクションからのリサイクルコットンを用いた張り子のような質感の素材です。美しいだけでなく、控えめな生の自然素材でもあります」と語る。
外の景色が映り込むファサード。
ガラスシリンダーを用いたフィッティングルーム。
通りの緑を取り込む2階。
店内は直線と曲線が混ざり合い、「自然界や身体のラインのように、すべてのものがカーブを描いている」とサラが言うように、巨大なガラスシリンダーから、壁や天井、階段の手すりまであらゆるところに曲線が取り入れられている。

ロンドン、そして表参道を貫く新しいアレキサンダー・マックイーンの店舗デザインのコンセプトを、ラディックは「エスケープ主義」と定義づける。

「歩き回るうちに迷子になる場所、ファッションデザイン、アートと建築の本当のつながりを見つけることができる場所、そして自分のスペースを見つけられる場所を実現しようとしました」

また、サラは「私は、どの店舗も温かみを感じられ、居心地の良い体験ができる空間であることを大切にしているので、表参道店もそう感じてもらいたいと思っています。表参道店を訪れた方々がアレキサンダー・マックイーンの物語を発見して、理解してもらうために、空間を心から楽しんでもらいたい。デザインの要素としてのファブリックのアイデアは、ディスプレイされているコレクションを参考にしていることはもちろんですが、ブランドの中核となる価値観を保ちながらショーが雰囲気を変えていくのと同じように、店舗の雰囲気を変えます。 ファブリックはスタジオでチームがデザインしています。そのファブリックは店の中核となるフィッティングルームを包み込み、繭のような空間を創り出しています」と語る。

表参道にアレキサンダー・マックイーンの幻想の森が誕生した。

Sarah Burton

2010年5月にクリエイティブ・ディレクターに就任。ブリティッシュ・デザイナー・オブ・ザ・イヤーを獲得し、タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」にも選出。大英国勲章OBEも授与。photo_David Burton

Smiljan Radic

1965年チリ、サンディアゴ生まれ。1995年に建築事務所設立。チリの原風景やアート、童話などから着想を得た詩的な作風。主な作品に〈サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2014〉。photo_Don McCullin

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