『カルティエ、時の結晶』開催中。 会場構成を手がけた〈新素材研究所〉に徹底インタビュー。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

『カルティエ、時の結晶』開催中。 会場構成を手がけた〈新素材研究所〉に徹底インタビュー。

杉本博司と田倫之が主宰する〈新素材研究所〉が、初めて展覧会会場構成を手がけた。従来のジュエリー展とは一線を画す異色の空間作りやユニークな展示方法について、2人に話を伺いながら観ていきたい。

会場のエントランスにそびえる、針が逆行する時計塔。 
宝飾品としての枠組みを超え、人類の芸術文化遺産としての価値を広く伝播させるために、カルティエはこれまで世界のさまざまな都市で「カルティエ コレクション」の展覧会を開催してきた。10月2日から〈国立新美術館〉で始まった『カルティエ、時の結晶』は、これまでの創作の歴史を総覧しながら、特に1970年代以降の作品が多く出品されて注目を集めている。

今回の展覧会タイトルは「時の結晶」。宝石とは、地中深くに眠る石が何万年という長い歳月をかけて少しずつ結晶化し、色や光や輝きを帯び、奇跡のように見出された、まさに時間の産物である。一方、杉本氏も長年「時間」をテーマにさまざまな作品を制作してきた。この両者が結びついて、今回の展覧会コンセプトが固まった。そして、地底空間に奇跡の宝石を探しに行くようなイメージの会場構成を〈新素材研究所〉は目指したという。
アンティーク時計の針が逆行するように歯車を改変した杉本博司の作品《逆行時計》。光学ガラスの錘がゆっくりと下降するにつれて針が逆回りする。
入り口を入ると、すぐに暗く細長い廊下に出る。正面には、高さ3メートルほどの場所に大きな時計の文字盤が浮かび、時針と分針は逆回りしている。これは杉本博司の作品《逆行時計》である。高所から吊るされた錘が少しずつ落ちていくことで時を刻む仕組みなのだが、杉本のアイデアにより、針を逆行させてあるという。

杉本博司(以下、杉本) 時計の錘の部分は、〈新素材研究所〉が使う代表的な素材の1つである光学ガラスの塊に付け替えてあり、これが徐々に落ちていくごとに時間をさかのぼるわけです。光学ガラスは人工クリスタルですから、今回の展覧会のタイトル『Crystallization of Time』にも符合しています。


田倫之(以下、田) 来場された方は、まずこの《逆行時計》を見ることで、宝石が生まれた太古の時代にさかのぼる体験に導かれるのです。

杉本 もし手鏡など小さなミラーをお持ちなら、時計を背にして立ち、鏡に時計の文字盤を写してみてください。すると、今現在の時刻が見えます。つまり「今あなたが存在する空間は、逆行している時間の鏡像である」ということ。どう? 逆説的でしょう?(笑)
《ミステリークロック》や《プリズムクロック》などが展示されている序章「時の間」。
その先は、序章「時の間」と題された空間だ。黒いカーテンに囲まれた広い空間に、白い透けるファブリックを筒状に垂らした柱が12本あり、《ミステリークロック》や《プリズムクロック》などが展示されている。

 織物メーカー、川島織物セルコンの協力で特別に製作されたファブリックは、日本に古くからある「羅」という複雑な構造を持つ素材をもとに「風通織(ふうつうおり)」と呼ばれる二重構造になっています。この透ける12本の光の柱によって空間にリズムが生まれ、時計の文字盤の上を回遊するイメージにもつながりました。
透ける白布が筒状に垂れ下がり、時計を包み込むかのよう。
この「時の間」を中央に据えて、第1章「色と素材のトランスフォーメーション」、第2章「フォルムとデザイン」、第3章「ユニヴァーサルな好奇心」の各展示室、さらに「パンテール」の作品を集めたコーナーと、アーカイヴス資料の展示室で構成されている。

特に驚かされたのが、ジュエリーをかけたり、置いたりして展示するための治具(トルソーなど)を、すべて〈新素材研究所〉がオリジナルで製作したことだ。