DESIGN
デザイナーの個性あふれる「視点」を共有する〈紙工視点〉|土田貴宏の東京デザインジャーナル
December 13, 2018 | Design, Art | casabrutus.com | photo_Kaori Ouchi (Okazaki) text_Takahiro Tsuchida
〈紙工視点〉は、新世代のデザイナーが紙をとらえる視点を多角的に紹介していくプロジェクト。デザインの前段階である視点に注目し、自由で斬新なプロダクトを生み出す。国立新美術館の地下にある〈SFT Gallery〉では「紙工視点」展も開催中。ディレクターを務める岡崎智弘が、そのコンセプトを語る。
〈紙工視点〉は、製品のシリーズ名であるとともに、新しいタイプの「仕組みのデザイン」でもある。パッケージなどの紙製品の製造を本業とする福永紙工が、グラフィックデザイナーの岡崎智弘に新しいプロジェクトを依頼したのが、その基点になった。これまで福永紙工は、トラフ建築設計事務所の《空気の器》や建築家の寺田尚樹による《テラダモケイ》をはじめとするユニークな紙のプロダクトを発表。デザイナーとの協働プロジェクトとして行ってきた〈かみの工作所〉は2016年に10周年を迎えていた。
「10年前なら紙のプロダクトというだけで新しさがあったけれど、〈かみの工作所〉が様々なデザイナーを起用した製品を出し、他のメーカーも増えて、ずいぶん環境が変わりました。さらに新しいものを加えるだけでは、あまり意味がないと思ったんです」と岡崎は話す。そこで彼が注目したのは、デザインの対象として紙をとらえるデザイナーの視点だった。
「たとえばトラフの《空気の器》はとてもよくできた、美しく驚きのあるプロダクトで、いろんな意味でおもしろい。ただ、僕にとっては紙をどう見たかという視点がいちばんおもしろいと気がつきました。おもしろいデザインは、世の中では完成した状態で評価されるけど、作るプロセスの前に必ずその人なりの視点があるはずなんです」
多様な種類のものが、誰のまわりにも当たり前に存在する紙。だからこそ独自のデザインを成立させるためには、素材をどんな視点でとらえるかが重要になってくる。「紙というテーマから何が生まれるか予想できないこと」をひとつの基準として、荒牧悠、小玉文、辰野しずかという1980年代生まれの3名がデザイナーとして起用された。すべて女性なのは偶然だったという。
「3人には『紙のとらえ方そのものから考えてください』というとても曖昧な課題を投げかけました。大事なのは視点なので、お題をこちらで決めたら意味がありません。みんな最初は『何だそれ』という感じでしたが(笑)、始まってみるとやっぱり本当におもしろかった」
「たとえばトラフの《空気の器》はとてもよくできた、美しく驚きのあるプロダクトで、いろんな意味でおもしろい。ただ、僕にとっては紙をどう見たかという視点がいちばんおもしろいと気がつきました。おもしろいデザインは、世の中では完成した状態で評価されるけど、作るプロセスの前に必ずその人なりの視点があるはずなんです」
多様な種類のものが、誰のまわりにも当たり前に存在する紙。だからこそ独自のデザインを成立させるためには、素材をどんな視点でとらえるかが重要になってくる。「紙というテーマから何が生まれるか予想できないこと」をひとつの基準として、荒牧悠、小玉文、辰野しずかという1980年代生まれの3名がデザイナーとして起用された。すべて女性なのは偶然だったという。
「3人には『紙のとらえ方そのものから考えてください』というとても曖昧な課題を投げかけました。大事なのは視点なので、お題をこちらで決めたら意味がありません。みんな最初は『何だそれ』という感じでしたが(笑)、始まってみるとやっぱり本当におもしろかった」
プロダクトデザイナーやクリエイティブディレクターとして、日本の地場産業とコラボレーションした製品を多く発表している辰野しずか。彼女は、梱包などに使われる紙の緩衝材にまず着目した。紙を細く切っただけのものでありながら、手で触ることで形と大きさを自由に変えられる柔軟性や素材感に興味を持ったのだ。そこから紙の可能性を考えることで、《948》というプロダクトが生まれた。
小玉文は、食品や飲料のパッケージデザインなどで活躍しているグラフィックデザイナー。彼女は当初、紙ならではの「破れる」というダメージから発想をふくらませた。さらにダメージのバリエーションとして紙が「割れる」状態を試し、その違和感に魅力を感じたという。ヒビの入り方は石膏の板を割って検証し、グラフィックデザインの感性も生かして、ピシッと1本のヒビが入った紙の箱《CRACKED PAPER(STONE)》を作った。
アーティストの荒牧悠は、身の回りを観察して、すでにあらゆる種類の紙のプロダクトが存在していると感じた。やがて紙のしなりや重さといった物的特性を活かし、「やじろべえを作ろうとせずにやじろべえになっているもの」を目指し始める。3人のうちで最もプロセスが迷走したという彼女だが、最終的には知育玩具ともキネティックアートの制作キットともつかない、不思議な製品《ポヨンペロン》を完成させた。
「1年半くらいの間、月1回程度の打ち合わせをメンバーで集まって繰り返しました。ディレクションが強すぎるとデザイナーの視点ではなくなってしまうので、僕の役目はおもしろいと思ったものを『これすごくおもしろいね』って言うことでした」と岡崎。製品化が前提でも、そのための制約はできるだけ設けなかった。福永紙工には、デザイナーが本気でデザインしたものは、そのよさを適切に伝えれば必ず売れるという信念があるのだという。
「1年半くらいの間、月1回程度の打ち合わせをメンバーで集まって繰り返しました。ディレクションが強すぎるとデザイナーの視点ではなくなってしまうので、僕の役目はおもしろいと思ったものを『これすごくおもしろいね』って言うことでした」と岡崎。製品化が前提でも、そのための制約はできるだけ設けなかった。福永紙工には、デザイナーが本気でデザインしたものは、そのよさを適切に伝えれば必ず売れるという信念があるのだという。
そして岡崎のディレクションは、もの作りだけでは終わらない。〈紙工視点〉におけるデザイナーの視点は、ウェブサイトでもわかりやすく発信されている。対話形式のインタビュー記事の取材・構成には、3人のデザイナーと同世代でキュレーターとしても活躍する角尾舞を起用。また12月24日まで〈SFT Gallery〉(国立新美術館B1)で「紙工視点」展を開催し、多くの試作品を通してデザインプロセスを紹介している。
紙を見つめる視点を核として、プロダクト、グラフィック、ウェブサイト、空間、コミュニケーションまで、多様なデザイン領域を横断して発揮されるクリエイション。視点という明確なコンセプトのもと、そこでは自由な創造性が最大限に尊重される。〈紙工視点〉は、どこかデザイナーたちのプレイグラウンドを思わせるプロジェクトだが、そのウェブサイトには「ここは、新しい学びの場です」とある。ここでいう「学び」とは、「真剣に遊ぶ」というデザインにおいて重要なアプローチと通じているように感じる。
紙を見つめる視点を核として、プロダクト、グラフィック、ウェブサイト、空間、コミュニケーションまで、多様なデザイン領域を横断して発揮されるクリエイション。視点という明確なコンセプトのもと、そこでは自由な創造性が最大限に尊重される。〈紙工視点〉は、どこかデザイナーたちのプレイグラウンドを思わせるプロジェクトだが、そのウェブサイトには「ここは、新しい学びの場です」とある。ここでいう「学び」とは、「真剣に遊ぶ」というデザインにおいて重要なアプローチと通じているように感じる。
『紙工視点』
〈SFT GALLERY〉
東京都港区六本木7-22-2 国立新美術館B1スーベニアフロムトーキョー内 TEL 03 6812 9933。〜12月24日。10時〜18時。火曜休(金土〜20時) 。無料。
illustration Yoshifumi Takeda
土田貴宏
つちだ たかひろ デザインジャーナリスト、ライター。家具やインテリアを中心に、デザインについて雑誌などに執筆中。学校で教えたり、展示のディレクションをすることも。