トラフが手がけた、“ない”のに“ある”舞台美術。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

トラフが手がけた、“ない”のに“ある”舞台美術。

『カーサ ブルータス』2018年1月号より

初演から100回以上舞台美術なしで公演されてきた、『三月の5日間』にトラフが新たな線を引き直す。

舞台上には50mmのテープを200mm間隔、中心から90度の角度で貼る。単なる白線から、横断歩道が見えたり、ホテルの壁に見えたり、シーンや演者の動きで変化していく。
渋谷のラブホテルでセックスに興じたり、だらだらとしゃべりながらデモ行進に参加したりする若者たち。その背後ではアメリカがイラクへ空爆を開始し、戦争が始まろうとしている。そんな2003年3月の5日間の出来事を描いたチェルフィッチュの舞台『三月の5日間』。04年の初演から100回以上、世界各国で上演されてきた舞台が今回、俳優を一新しリクリエイションされることになり、初めて舞台美術を導入する。チェルフィッチュとは4度目の仕事となるトラフ建築設計事務所が手がけることになった。

「ないのが面白いんですけど、ないこと以上に面白い舞台美術がある状態を自分たちも見てみたかったんですよね」とチェルフィッチュ主宰の岡田利規さんは語る。

もともと何もなかった舞台に何を加えたらもっと面白くなるのか、トラフの鈴野浩一さんは、様々なスタディを繰り返した。

「最初は高さのあるものを置いてみたりしていたんですが、俳優の動きや言葉が作り出す世界より舞台美術の存在感が大きくなってしまってはダメ。岡田さんと話し合うなかで、だんだん何もしない方向になりました。でも、“白線”って最小限の建築だと思うんです。見る角度で太さが変わったり、壁が立ち上がったりするかと思えば、存在感がなくなったり。空間の中で自在に線が変化していく姿が面白い」と鈴野さんは言う。

空間に加えられた線と身体の関係、という視点から舞台を観るのも面白い体験になるかもしれない。
縦900×横2,700×奥行き1,800mmの、通称「トウフ」と呼ばれる巨大な箱。渋谷の大型ビジョンやホテルの天井、戦争の不穏な空気などを感じさせる。字幕を表示する機能も。
チェルフィッチュ
岡田利規が全作品の脚本と演出を務める演劇カンパニー。「演劇は社会の鏡」と言い、常に時代への問いを投げかける作品を上演。設立は1997年、20周年を迎えた。従来の演劇の概念を覆す活動は国内外で評価。公式サイト


トラフ建築設計事務所
鈴野浩一と禿真哉により2004年に設立。建築の設計をはじめ、インテリア、展覧会の会場構成、プロダクト、空間インスタレーション等幅広く活躍。2016年には作品集『トラフ建築設計事務所 インサイド・アウト』(TOTO出版)を刊行。

『三月の5日間』

2003年、イラク戦争が開戦した頃の東京が舞台。04年初演の衝撃作を、26歳以下の俳優で再演する意味を再考したい。〜12月20日。

〈KAAT神奈川芸術劇場〉

神奈川県横浜市中区山下町281
TEL 0570 015 415。当日一般4,000円。