古今東西 かしゆか商店【鯖江の眼鏡フレーム】 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

古今東西 かしゆか商店【鯖江の眼鏡フレーム】

『カーサ ブルータス』2019年7月号より

日常を少し贅沢にするもの。日本の風土が感じられるもの。そんな手仕事を探して全国を巡り続ける、店主・かしゆか。今回は、日本一の眼鏡の産地として知られる福井県鯖江市へ。ほとんどのパーツを手作業でつくる稀有な眼鏡職人を訪ねた。

眼鏡にまつわる会社が約500社もある福井県鯖江市。パーツづくりから磨きまで200以上の工程の多くを一人で行う眼鏡職人、井戸多美男さんの工房で。「細部の細部までつるんと滑らかで本当にきれい」とかしゆか店主。
昔から眼鏡が好き。「眼鏡の町・鯖江」という名前も知ってはいましたが、どんなふうにつくられているかは見聞きする機会がなく、いつか訪ねたいと思っていたんです。

日本の眼鏡フレームの95%が生まれる鯖江で眼鏡づくりが始まったのは1905年ごろ。農閑期の副業として大阪の眼鏡職人から教わった技術が、いつしか産業として根づいたのだそうです。雪深い土地の、冬の間だけの手仕事. そんな昔ながらのやり方でメタル製フレームをつくっているのが、井戸多美男さんです。
Buying No.16【鯖江の眼鏡フレーム 】 眼鏡の聖地で手づくりする美しいメタルフレーム。「T-461」WG 各36,000円。
DIYで建てたという工房には年季の入った巨大な機械がなんと20機以上。眼鏡フレームは金型製作やプレス、組み立て、磨き……と200〜300もの工程を経てつくられます。ほとんどのメーカーや工房が分業制をとる中、1から10までひとりで手がけられる人は本当に稀だとか。

「穴開けから磨きまで、工程ごとに使う機械が違う。細かい部品まで全部自分でつくろうとすると、これだけの機械が必要なんだよ」

と言いながら、60トンの巨大プレス機で厚さ数mmの極小パーツをつくる後ろ姿が頼もしい。金属を押し潰すガッシャン!! という轟音と、カカンカンカン……という乾いた機械音がまじりあう中で、黙々と作業を続けます。
長年使い込んだ巨大プレス機。
レンズを入れるリムにパーツをロウ付け。
長年使い込んだ巨大プレス機。
レンズを入れるリムにパーツをロウ付け。
井戸さんが使うのは「サンプラチナ」という金属。錆びにくくプラチナに似た光沢をもつことから昔は重宝されましたが、今はほとんど使われていないそうです。

「サンプラチナはとても硬いのでプレスするのが大変。磨きひとつとっても、一般的な合金に比べて3倍以上の時間がかかる。それでも、この奥深い光沢は他の素材では出せません」