総額おいくら万円? アート作品満載のトム・フォード新作映画|山縣みどりのアート&ゴシップ | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

総額おいくら万円? アート作品満載のトム・フォード新作映画|山縣みどりのアート&ゴシップ

『シングルマン』で鮮烈な映画監督デビューを飾って8年。スタイリッシュな映像と巧みなストーリーテリングで映画ファンを魅了したトム・フォードの監督第2弾がついに日本公開される!

主人公スーザン(エイミー・アダムス)の背後に注目。肥満女性のヌードを“ファット・シェイミング”と批判する声も上がったが、フォードによると「観客に魔法をかけるワルキューレ(北欧神話に登場する、戦場での生死を決する女神)のような存在として描いた」そう。
真っ赤な布の前で全裸の肥満女性が脂肪を揺らしながら舞い踊る! ある女性は花火をくるくると回し、ある女性はマーチングバンドの帽子を小粋にかしげている。という禁忌を犯したようなショッキングなビデオ映像で幕開けするのは、トム・フォード監督の長編映画2作目『ノクターナル・アニマルズ』だ。

映像は主人公スーザン(エイミー・アダムス)がキュレーションした展覧会の展示物だが、実際はフォード自身によるビデオアート。最近、ファッション界では激痩せモデルを起用しない方向だが、フォード監督はさらに先鋭的。老いとともに肉体がふくよかに変わる女性をあるがままに受け入れている姿が、現代のルノワールでありルーベンス! とにかく時代の先端!
スーザンがオフィスに飾るジョン・カリンの《Nude in Convex Mirror》(写真左上)が描く女性の巨大ヒップは、カーブミラーに写したようにデフォルメされている。
オースティン・ライトの同名小説をフォード自身の大胆な解釈で脚色した本作は、ヒロインのスーザンを軸とするネオ・ノワール的なサイコ・スリラー。ギャラリストとして活躍する彼女の元にある日、元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から小包が届く。中身は、彼女との離婚に着想を得たという小説「ノクターナル・アニマルズ」。小説を読み始めたスーザンは内容に心乱され、封印したはずの罪悪感にさいなまされ始める!?
元夫から送られてきた小説を読み始めるスーザン。自宅なのにスキのないファッションは帰宅直後だから。眼鏡はトム・フォードではなく、セリーヌ。
物語はスーザンの現在と過去、そして元夫が書いた小説という3つの舞台を交錯させながら進行する。何よりも目を奪われるのが、トム・フォードのハイレベルな美意識が発揮されたハイアートな世界観だ。すべての作品がスーザンの人生を語り、その時々の彼女の心情を暗喩するように配置されているのも見逃せない。映画中で別の物語が展開する構成であり、さらには映画芸術に多数のコンテンポラリーアートを挿入した二重の“入れ子構造”になっている。
元夫エドワードを演じるのはジェイク・ギレンホール。劇中劇となる小説「ノクターナル・アニマルズ」の主人公トニーも演じている。
小説は、チンピラに妻子を殺害された男の復讐と贖罪。主人公を助ける警部補(マイケル・シャノン)の存在もあり、コーマック・マッカーシーを彷彿させる展開だ。