ヒップホップ界伝説の映画『Style Wars』。荏開津広が語る、その歴史的価値とは。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

ヒップホップ界伝説の映画『Style Wars』。荏開津広が語る、その歴史的価値とは。

『カーサブルータス』 2021年3月号より

グラフィティをはじめとするヒップホップの黎明期を克明に映したマスターピース『Style Wars』。初公開から40年の時を経て、遂に日本劇場初公開となる本作の見どころと現代的な意義を、ストリート・カルチャーの歴史に精通する文筆家、DJの荏開津広さんに尋ねました。

サブウェイの間を自由に駆け回り、グラフィティを「ボム」していくライターたち。© MCMLXXXIII Public Art Films, Inc. All Rights Reserved
73年に生まれたヒップホップというカルチャーは、ラップ、DJ、ブレイクダンス、グラフィティの“四大要素”から成る。ドキュメンタリー映画『Style Wars』は、ヒップホップ文化の黎明期を、グラフィティにフォーカスして克明にとらえた名作である。世界のヒップホップに決定的な影響を与え、長らく伝説的なフィルムとして語り継がれてきたこの作品が、3月26日より、日本劇場初公開される。その現代的な意義を、ストリート・カルチャーの歴史に造詣の深い荏開津広さんに聞いた。

─率直に、『Style Wars』とはどのような映画ですか?

バンクシーの作品が都庁で公開されるなど、日本でもグラフィティが注目される機会がありました。そのグラフィティとは何か知るためには必須にして最良の映画だと思います。実際のグラフィティ・ライターの生の声を聞くことができ、またその歴史や社会的背景、その行く末までもが、素晴らしい取材力とともに、多面的に描かれています。初公開された83年以前にも、グラフィティを取材した雑誌記事やテレビ番組も少数ながら存在していました。そうした中にあって、この映画は当時、グラフィティ紹介の決定版のように受け止められました。

タイトルの「スタイルウォーズ」には二つの意味が込められています。一つは、ライター同士の切磋琢磨であり、彼らは誰の作品が最も優れているかを競い合っていました。もう一つには、“一般的”なライフスタイルに対する反抗の意味であり、反グラフィティ・キャンペーンを張るニューヨーク市とライターたちとの戦いが映されます。
映画内では貴重なグラフィティの数々が映され、その制作過程を見ることもできる。© MCMLXXXIII Public Art Films, Inc. All Rights Reserved
─グラフィティとはどのようなものなのでしょうか。

もちろん、一面では絵であり、視覚表現です。そのデザイン性の高さから、ファッションやロゴといったものにも使われることになります。他方で、公共物に絵を描くということはつまり、都市への介入行為でもあります。グラフィティは街の景色を変えるのです。

─しかし、映画内でも描かれるように、それは芸術ではなく犯罪ではないか、という意見もあります。

議論があって難しい問題ですが、芸術とは何か、ということから始めてみましょう。80年代以降の現代美術は、たとえばそれまでファッションと思われていた服などを美術館に展示し、これも芸術だという風に定義を拡大していきました。グラフィティの場合も同様に、ストリート・カルチャーだったものを、美術の側が招き入れて芸術化する、というようなことが起きました。

たしかに、公共物である地下鉄車両や建物の壁に絵を描くことは違法行為ではあります。しかし同時に、私たち市民には自分たちの都市を自由に使う権利があります。おそらく、良いか悪いかという問いは重要なことを覆い隠してしまいます。グラフィティは美術になり、ストリート・カルチャー/アートという世界的な一大産業となりました。映画に出てくる若者たちが、なにか新しいものを作り出し、世界を変えたという事実が重要なのです。彼らの多くはその後出世して、様々な分野に影響を与えました。
映画にも出演するライター、Dondiによるグラフィティ。当時はこのようなグラフィティで、地下鉄車両がジャックされた。© MCMLXXXIII Public Art Films, Inc. All Rights Reserved
─そのような自由への試みが、当時のニューヨークで起こったのはなぜなのでしょう。

ヒップホップやグラフィティが生まれた背景には、50年代、ロバート・モーゼスという都市建築家の人種差別的隔離主義による都市計画によって、人工的にゲットーが作り出されたという歴史があります。だからこそ、都市への介入行為としてのグラフィティはそれに対するカウンターの意味を持ったのです。

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