都築響一による話題の新刊『Neverland Diner──二度と行けないあの店で』。きわめて個人的な食体験があなたの腑に届くように。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

都築響一による話題の新刊『Neverland Diner──二度と行けないあの店で』。きわめて個人的な食体験があなたの腑に届くように。

『カーサ ブルータス』2021年3月号より

『Neverland Diner──二度と行けないあの店で』の編者、都築響一に聞いたリアリティの源泉。

つづききょういち 1956年生まれ。『ROADSIDE JAPAN 珍日本紀行』で木村伊兵衛賞受賞後も、世界中のロードサイドを巡っている。新著に、地下アイドルとヲタを写した『IDOL STYLE』(双葉社)。
白いブロックのような分厚い本には、100人分の「二度と行けない店」の記憶が詰め込まれている。編者である都築響一を筆頭に、平松洋子、いしいしんじ、といった作家だけでなく、女王様、自撮り熟女などの世間的には無名の人々のエッセイも並ぶ。

「じゃあ、そういう人の文章はプロに比べて面白くないかというと、全然そんなことはない。ほとんど直してないんです。アマチュアですからWordのファイルで来るなんてことは少数派であって、TwitterのDMとかFacebookのメッセンジャーで原稿が送られてくる。今はプロと素人の書き手にレベルの差ってあんまりない。それぐらいみんな達者になってきてますよね。体験の質にはプロもアマも関係ないですから」

都築と、もう一人の編者である〈スナック・アーバン〉のママ、臼井悠のきわめて個人的な繋がりから依頼された文章に通底しているのは、過去の都築の仕事と同様の、圧倒的なリアリティ。

「原稿が届くたびに驚きはしないけれど、そうだよなと思ったのは、ほとんどグルメ系の話がないということ。高い料理すら少ない。みんなの記憶に残る飲食体験と世間のいわゆるグルメの人の評価って完璧に一致しないんだなと。それから、飲食メディアが普通の人の感覚から離れちゃっているなという気がすごくします」
写真はすべて都築撮影のもの。旭川のスナックの描き文字。
「二度と行けない店」なので、掲載写真はすべてイメージ。
編集者が自分の金で飲み食いしていないレストランの紹介が雑誌に並び、グルメサイトの点数によって店の良し悪しが決められる。年々強まるその傾向に対する「反感」が強くあるという。

「一矢報いることをやりたいなという思いはずっとありましたね。店に行って、受け取り方は様々じゃないですか。そういうものに曖昧な基準で評価をつけてしまうって、すごく失礼なことだと思うんですよ。ランチ1回行ったくらいで、星3つとか言ってんじゃねえっていう。僕だったら、星1つのところに行きたいもんね。5はどうでもいいけど、1だったらきっと何かがあるじゃないですか」

その “何か” を見つけた経験を過去に遡って探すと、そこには必ず過去の自分がいる。だから、この食体験集には私小説のような匂いが充満している。筆者にバリー・ユアグローが含まれていることからも分かる通り、失われた店を慈しむという感情は、世代も国籍も超えた、非常に根源的なもの。その記憶を集めてまとめることで、読者の個人的な体験も肯定される。
総勢100名の食の記憶が一冊に。
「前作の『捨てられないTシャツ』の時もそうだったけど、10万円のTシャツとか、今回で言えば唯一無二の高級料理とか、そういうものは一つもないんですよ。言っちゃなんだけど、書き手も誰でもいいわけ。交換可能で、参加可能なもの。僕は本当に身近なものばっかり集めているわけですけれども、それでも面白いというのは、自分でやっていても面白いなと思いますね。コロナ禍で『二度と行けない店』は増えてしまうかもしれないけれど、せめて書き留めておくといいんじゃないかなと思うんです。書くこと自体で忘れないし、人に伝えられるから。それが100人、200人となったら、時代感覚が出てくるんだと思います」

『Neverland Diner──二度と行けないあの店で』

メルマガ『ROADSIDERS’ weekly』での連載をまとめた。曰く「出版社から書籍化の依頼が殺到すると思ったのに、見向きもされなかった企画」。ケンエレブックス/3,300円。

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