FOOD
〈BEARD〉原川慎一郎さん、なぜ雲仙に店を開いたんですか?
『カーサ ブルータス』2021年5月号より
| Food | a wall newspaper | photo_Norio Kidera text_Michiko Watanabe
原川さん、恋したんですね、その人の野菜に。雲仙まで追っかけて店も開いちゃったとか。その恋の真相を探りに、私たちも雲仙へ。新〈BEARD〉をつくる、4つの要素を探ります。
前は海、後ろは火山。間をとりもつように噴き出しているのが長崎は雲仙の小浜温泉だ。ここに昨年12月、誕生したのが〈BEARD〉である。あれ、どこかで聞いたことがあるような。そう、かつて東京・目黒に原川慎一郎さんが開いたレストランの名だ。その後、神田〈the Blind Donkey〉を経て雲仙へ。って、なぜ?
「雲仙で種採り農家をされている岩崎政利さんの野菜の持つ生命力に圧倒されたのがきっかけです」。農家の多くは、野菜の種を買って栽培しているが、種採り農家は、自家採取した種で野菜を育てていく。いってみれば、大昔と同じやり方なのだが、とてつもなく手間がかかるし、難しい。岩崎さんは40年近く前から、地元・雲仙はじめ、全国から譲り受けた在来種の野菜80種ほどを、種を取りながら育てている。原川さんは東京でも岩崎さんの野菜を使っていたが、「雲仙だと元気度が違う。畑から抜いてすぐに料理できる贅沢を日々感じています」。
では、新〈BEARD〉の料理はというと、シンプルの極み。削いで削いで、削ぎ落とした料理だ。客の目の前で、野菜を切るところからスタートする。ピチピチはねてる魚をおろしているような感覚だ。「野菜の持っている力を、ストレートに伝えたい」。となると、ハーブの香りすら余分に感じる。「突き詰めると、切って出すだけになる(笑)。最初は抵抗がありましたが、最近は、すんなりできるようになってきました」
もちろん、切って出すだけじゃない。それぞれの野菜が際立つ皿が続々登場する。どれもがやさしさと野菜愛に満ちている。豊かな自然と風土に抱かれ、さらなる進化を遂げる、原川さんの新境地だ。
もちろん、切って出すだけじゃない。それぞれの野菜が際立つ皿が続々登場する。どれもがやさしさと野菜愛に満ちている。豊かな自然と風土に抱かれ、さらなる進化を遂げる、原川さんの新境地だ。
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