DESIGN
ロン・ギラッドの新作ミラーが映す、デザインの理想郷。|土田貴宏の東京デザインジャーナル
July 13, 2018 | Design, Art | casabrutus.com | photo_Akihide Mishima text_Takahiro Tsuchida
「1960~70年代、イタリアのデザインが自由で革新的だったのは、それをブランドも後押ししたから。しかし最近は……」。デザイナーのロン・ギラッドは、デザインの黄金期を振り返りながら、さらに新しい一歩を踏み出そうとしている。
イスラエル出身のデザイナー、ロン・ギラッドが作るものには、意外性とユーモアが共通してそなわっている。さらに1点1点の背景にはユニークなストーリーがあり、アイロニーを感じさせる作品も多い。カッシーナ・イクスシー青山本店で7月24日まで開催中の『フラグメンツ・オブ・ライフ』は、そんなギラッドの作風をシンプルに伝えている。彼が手がけたものを「生活のかけら」と位置づけた展示は、日常の中のデザインの役割について想像力をふくらませてくれる。
彼が初めて〈カッシーナ〉からミラーを発表したのは2016年。シュールレアリズムのアートのような存在感をもつ一連の作品は大きな注目を集めた。今年の新作ミラー《オーヴァル》は2種類あり、いずれも中央部分がミラーに加工されていない。一方はミラーの奥の壁が見え、一方は青空が描かれている。今回、来日したギラッドは、この新作についてこう話す。
「これは、自分の見え方に執着する人間に対してのちょっとしたアイロニー。真ん中はただのガラスだから自分の姿がうっすらと映る。青空のほうは、たまには自分のことを考えずに空でも見ようという意味だ。人を映すのに疲れた鏡が、ちょっと仕事を休んだみたいに見えるね」
「これは、自分の見え方に執着する人間に対してのちょっとしたアイロニー。真ん中はただのガラスだから自分の姿がうっすらと映る。青空のほうは、たまには自分のことを考えずに空でも見ようという意味だ。人を映すのに疲れた鏡が、ちょっと仕事を休んだみたいに見えるね」
今回、ミラーとともに中核を占めるのは〈ダネーゼ〉のアイテムだ。1957年に創業してブルーノ・ムナーリやエンツォ・マーリらの個性的なプロダクトを発表し、デザインの楽しみを世界に広めた〈ダネーゼ〉。ロン・ギラッドは昨年からそのクリエイティブディレクターを務めている。
「創業者のブルーノ・ダネーゼが運営した時代の〈ダネーゼ〉は、自由で制約がなく、企業よりもギャラリーのようなブランドだった。その後、揺らいでしまったブランドのアイデンティティーを、僕はオリジナルに戻したい。去年は自分の作品だけを新作として発表したけど、今年はミケーレ・デ・ルッキとリチャード・ハッテンを起用した。ハッテンはオランダの〈ドローグ〉の初期メンバーで、そもそも〈ドローグ〉と〈ダネーゼ〉は『機能を疑う』という姿勢が共通していたと思う」
「創業者のブルーノ・ダネーゼが運営した時代の〈ダネーゼ〉は、自由で制約がなく、企業よりもギャラリーのようなブランドだった。その後、揺らいでしまったブランドのアイデンティティーを、僕はオリジナルに戻したい。去年は自分の作品だけを新作として発表したけど、今年はミケーレ・デ・ルッキとリチャード・ハッテンを起用した。ハッテンはオランダの〈ドローグ〉の初期メンバーで、そもそも〈ドローグ〉と〈ダネーゼ〉は『機能を疑う』という姿勢が共通していたと思う」
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illustration Yoshifumi Takeda
土田貴宏
つちだ たかひろ デザインジャーナリスト、ライター。家具やインテリアを中心に、デザインについて雑誌などに執筆中。学校で教えたり、展示のディレクションをすることも。