DESIGN
皆川 明さんが言葉を綴る、ザ・フィンランドデザイン展。
『カーサ ブルータス』2021年12月号より
November 12, 2021 | Design | a wall newspaper | photo_Norio Kidera text_Takahiro Tsuchida editor_Keiko Kusano
『ザ・フィンランドデザイン展』の音声コンテンツを手がけるミナ ペルホネンの皆川 明さん。そのリサーチに密着しました。
広く知られているように、「ミナ」と「ペルホネン」はフィンランド語で「私」と「蝶」という意味。そして皆川 明とフィンランドの繋がりは、それだけではない。歴史ある〈イッタラ〉や〈アルテック〉といったブランドとコラボレーションしたり、暮らしがテーマのショップ〈ミナ ペルホネン エラヴァ〉などでこの国のヴィンテージアイテムを扱ったり。さらにコロナ禍の前の3年間は、長期休暇をフィンランドで過ごすのが彼の習慣だったそうだ。
「朝起きて、決まったカフェに行って、ずっと街を歩いていました。他の国を旅行するのとは違い、フィンランドでは毎日同じことをして過ごすのが心地いい。例えばいつも行くカフェには、ホスピタリティやサービス精神とは違う温かみがあります。人を大切にする気持ちを感じるんです」
そんな皆川が、東京・渋谷の〈Bunkamura ザ・ミュージアム〉で始まる『ザ・フィンランドデザイン展─自然が宿るライフスタイル』に際してスペシャル音声コンテンツのテキストを担当するという。先日、その準備のために彼が向かったのは兵庫県丹波篠山市の〈兵庫陶芸美術館〉。ここでは東京に巡回する同展が11月28日まで開催されているのだ。会場には家具、陶磁器、ガラス、テキスタイル、衣服をはじめ、1930年代から70年代にかけて生まれた約330点もの幅広いデザインプロダクトや関係資料が並ぶ。
「朝起きて、決まったカフェに行って、ずっと街を歩いていました。他の国を旅行するのとは違い、フィンランドでは毎日同じことをして過ごすのが心地いい。例えばいつも行くカフェには、ホスピタリティやサービス精神とは違う温かみがあります。人を大切にする気持ちを感じるんです」
そんな皆川が、東京・渋谷の〈Bunkamura ザ・ミュージアム〉で始まる『ザ・フィンランドデザイン展─自然が宿るライフスタイル』に際してスペシャル音声コンテンツのテキストを担当するという。先日、その準備のために彼が向かったのは兵庫県丹波篠山市の〈兵庫陶芸美術館〉。ここでは東京に巡回する同展が11月28日まで開催されているのだ。会場には家具、陶磁器、ガラス、テキスタイル、衣服をはじめ、1930年代から70年代にかけて生まれた約330点もの幅広いデザインプロダクトや関係資料が並ぶ。
最初の展示室で、アルヴァ・アアルトの椅子《パイミオ》に、まず皆川は反応した。アアルト建築の代表作であるパイミオのサナトリウムのため40年代にデザインされたアームチェアだ。
「座面の形は結核の患者さんが呼吸しやすいように、アームの形は座った人が立ち上がりやすいように考えてあるそうです。すべて使う人に配慮しながら、最終的に美しさと接点を持っているのは、アアルトの偉大さですね。美意識だけで捉えられないものが、このデザインを形作っている」
実は皆川は、自宅で《パイミオ》を愛用してきた。そこに込められたアアルトの思考を、この展覧会の解説文によって初めてきちんと理解できたという。
「座面の形は結核の患者さんが呼吸しやすいように、アームの形は座った人が立ち上がりやすいように考えてあるそうです。すべて使う人に配慮しながら、最終的に美しさと接点を持っているのは、アアルトの偉大さですね。美意識だけで捉えられないものが、このデザインを形作っている」
実は皆川は、自宅で《パイミオ》を愛用してきた。そこに込められたアアルトの思考を、この展覧会の解説文によって初めてきちんと理解できたという。
すぐそばに展示された花瓶《サヴォイ》とその木型も目を引いた。やはりアルヴァ・アアルトが30年代に手がけたものだ。
「湖のイメージを思わせるガラスの表面の揺らぎは、このフラワーベースを木型で作っていた時代ならでは。今も同じ形の製品がありますが、こんな揺らぎは見られません。20世紀後半、合理性を受け入れることで得たものと失ったものが伝わってきます」
フィンランドのプロダクトにはロングセラーも多いが、時代が下るにつれて製造方法が変わるケースは珍しくない。豊富なコレクションを持つ〈ヘルシンキ市立美術館〉などの協力により、発表当時の貴重な逸品が展示の大半を占めるのは『ザ・フィンランドデザイン展』の見どころのひとつ。だからディテールや素材を通して時代を感じることができる。
「タピオ・ヴィルカラの《杏茸》も有名な作品ですが、平らな部分とアールを描く部分に均一な太さのラインを施せる職人は、何人もいなかったはずです。当時の職人は苦難や挑戦に対して今より無頓着だったのかもしれません。デザイナーの無理な要求を受け入れて、たとえ長い時間を要しても実現していったんじゃないかな。彼らの会話が聞こえてきそうです」
「湖のイメージを思わせるガラスの表面の揺らぎは、このフラワーベースを木型で作っていた時代ならでは。今も同じ形の製品がありますが、こんな揺らぎは見られません。20世紀後半、合理性を受け入れることで得たものと失ったものが伝わってきます」
フィンランドのプロダクトにはロングセラーも多いが、時代が下るにつれて製造方法が変わるケースは珍しくない。豊富なコレクションを持つ〈ヘルシンキ市立美術館〉などの協力により、発表当時の貴重な逸品が展示の大半を占めるのは『ザ・フィンランドデザイン展』の見どころのひとつ。だからディテールや素材を通して時代を感じることができる。
「タピオ・ヴィルカラの《杏茸》も有名な作品ですが、平らな部分とアールを描く部分に均一な太さのラインを施せる職人は、何人もいなかったはずです。当時の職人は苦難や挑戦に対して今より無頓着だったのかもしれません。デザイナーの無理な要求を受け入れて、たとえ長い時間を要しても実現していったんじゃないかな。彼らの会話が聞こえてきそうです」
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