CULTURE
長大作の名言「…ことを忘れてはいけません。」【本と名言365】
May 21, 2024 | Culture, Design | casabrutus.com | photo_Yuki Sonoyama text_Yoko Fujimori illustration_Yoshifumi Takeda design_Norihiko Shimada(paper)
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。日本のインテリアデザイン界を牽引した重鎮・長大作氏。92歳の最晩年まで、軽やかに、そして真摯にデザインと向き合い続けた氏の信念と魅力あふれる人柄とは。
デザインとは、ディテールの集まりであることを忘れてはいけません。
“生涯デザインをまっとうしたデザイナー”。そう語るにふさわしい人物が長大作だろう。自分と同世代のデザイナーの多くが、ある年齢を境にデザインから身を引いていく中、92歳でこの世を去る最晩年まで、新規プロジェクトや自身の家具の復刻(リ・デザイン)に取り組み続けた。また大御所と呼ばれる80代であっても「自分の勉強のために」と若手の展覧会やメーカーの新作発表に足繁く通い、率直で時に辛口な批評を残すことでも知られていた。生涯“いち”デザイナーであり続け、そして日本のデザインがより良い方向に向かうよう、後輩たちと積極的に意見を交わす。そんな人柄が多くの人たちから慕われたのだ。
ル・コルビュジエのアトリエで学んだ建築家・坂倉準三が開設した「坂倉準三建築研究所」に在籍し、中でも1958年の「八代目 松本幸四郎(初代 白鸚)邸」は、設計から家具デザインまで全てを担当。幸四郎夫人が同居する母上のために出した「畳の間でもゆっくりと座れる椅子を」というリクエストから、日本のインテリアデザイン史に残る名作「低座椅子」が誕生した。氏にとって、この「八代目 松本幸四郎邸」と前年に手がけた「藤山愛一郎邸」、そして1960年「第12回ミラノ・トリエンナーレ展」という3つの仕事が、建築設計の領域から椅子のデザインに強く惹かれるきっかけになったという。
「この仕事を機に、家具づくり、特に椅子をデザインすることがますます好きになっていったのです。椅子のデザインは簡単なようで、大変難しいものです。しかし、面白い。面白いからデザインするのです」と。
また、長のデザインには三角形のモチーフや三本脚のものが多いことで知られる。特に三本脚のスツールは片付けられるようスタッキング(積み重ね)可能であることが重要条件だという。スツールの脚を語る端々には、氏のデザイン理念が垣間見える。
「椅子も卓子も、脚のデザインが重要なポイントになります。形や材質、そしてどの位置につけるかというディテールが大切なのです。デザインとは、ディテールの集まりであることを忘れてはいけません。工夫されたディテールが一部にあるのでなく、工夫が凝らされたディテールが各所にある、その集積こそがデザインなのです」
細部まで工夫を凝らし形造られたものだからこそ、氏の椅子には時間を超えた美しさと優しさが息づくのだろう。
そして「私のデザインはいつも発展途上にあり、まったくの完成形というものはない」と謙虚に語り、座り心地を追求し改良を重ねる「リ・デザイン」は氏のライフワークとなった。長く生き、半世紀に渡り自身のデザインの細部にまで注力し、磨き続ける作業は、ある意味、デザイナーとして最も幸福な生き方ではなかったか。
“生涯デザインをまっとうしたデザイナー”。そう語るにふさわしい人物が長大作だろう。自分と同世代のデザイナーの多くが、ある年齢を境にデザインから身を引いていく中、92歳でこの世を去る最晩年まで、新規プロジェクトや自身の家具の復刻(リ・デザイン)に取り組み続けた。また大御所と呼ばれる80代であっても「自分の勉強のために」と若手の展覧会やメーカーの新作発表に足繁く通い、率直で時に辛口な批評を残すことでも知られていた。生涯“いち”デザイナーであり続け、そして日本のデザインがより良い方向に向かうよう、後輩たちと積極的に意見を交わす。そんな人柄が多くの人たちから慕われたのだ。
ル・コルビュジエのアトリエで学んだ建築家・坂倉準三が開設した「坂倉準三建築研究所」に在籍し、中でも1958年の「八代目 松本幸四郎(初代 白鸚)邸」は、設計から家具デザインまで全てを担当。幸四郎夫人が同居する母上のために出した「畳の間でもゆっくりと座れる椅子を」というリクエストから、日本のインテリアデザイン史に残る名作「低座椅子」が誕生した。氏にとって、この「八代目 松本幸四郎邸」と前年に手がけた「藤山愛一郎邸」、そして1960年「第12回ミラノ・トリエンナーレ展」という3つの仕事が、建築設計の領域から椅子のデザインに強く惹かれるきっかけになったという。
「この仕事を機に、家具づくり、特に椅子をデザインすることがますます好きになっていったのです。椅子のデザインは簡単なようで、大変難しいものです。しかし、面白い。面白いからデザインするのです」と。
また、長のデザインには三角形のモチーフや三本脚のものが多いことで知られる。特に三本脚のスツールは片付けられるようスタッキング(積み重ね)可能であることが重要条件だという。スツールの脚を語る端々には、氏のデザイン理念が垣間見える。
「椅子も卓子も、脚のデザインが重要なポイントになります。形や材質、そしてどの位置につけるかというディテールが大切なのです。デザインとは、ディテールの集まりであることを忘れてはいけません。工夫されたディテールが一部にあるのでなく、工夫が凝らされたディテールが各所にある、その集積こそがデザインなのです」
細部まで工夫を凝らし形造られたものだからこそ、氏の椅子には時間を超えた美しさと優しさが息づくのだろう。
そして「私のデザインはいつも発展途上にあり、まったくの完成形というものはない」と謙虚に語り、座り心地を追求し改良を重ねる「リ・デザイン」は氏のライフワークとなった。長く生き、半世紀に渡り自身のデザインの細部にまで注力し、磨き続ける作業は、ある意味、デザイナーとして最も幸福な生き方ではなかったか。
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