CULTURE
トミ・ウンゲラーの名言「解けない謎こそ、…」【本と名言365】
May 9, 2024 | Culture | casabrutus.com | photo_Yuki Sonoyama text_Keiko Kamijo illustration_Yoshifumi Takeda design_Norihiko Shimada(paper)
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。『すてきな三にんぐみ』や『へびのクリクター』など、ちょっと変わった主人公のユーモアとアイロニーに満ちた絵本を多く生み出した作家トミ・ウンゲラーが説いた、人間にとって一番大切なこととは。
解けない謎こそ、ぼくたちの想像力や夢がよろこぶごちそうなんだ
全身を真っ黒なマントで覆い、手には真っ赤なまさかりを持ち、お金持ちから宝石やお金を奪う盗賊の3人組が、ひょんなことから親のいない孤児ティファニーちゃんと出会う。そして、盗んだお金の使い途を初めて考え出して……。誰もが一度は目にしたことのある『すてきな三にんぐみ』を生み出したトミ・ウンゲラー。大胆なグラフィックと色遣い、きわどいユーモアと心温まる物語は、日本で1969年に出版されてから、多くの人たちに愛されている絵本の一冊だろう。
その他にも『へびのクリクター』『ゼラルダと人食い鬼』『エミールくんがんばる』など、たくさんの絵本を世に送り出したウンゲラー。彼を語るキーワードとして、絵本はもちろん掲げられるが、その他に「ユーモアとアイロニー」「反戦、反権力」「エロティシズム」という言葉が挙げられるだろう。そうした多様なウンゲラーの側面についてすべて語るには紙幅足りないので割愛するが、すべての面を知るとより絵本がより味わい深いものになることは間違いない。
『すてきな三にんぐみ』もそうだが、盗賊なのに「すてきな」とはどういうことだろうか? 人から金品を奪っているのに、それを孤児に使う、それって「いい人」なのだろうか? ウンゲラーはすべての活動において、善悪という二元論では決して答えが出ないような、ひと言では言えない気持ちや感情を、ユーモアを交えた絵と言葉で伝え続けてきた。ナチ占領下のアルザスで幼少期を過ごした彼は、「自分自身の頭で考える」ことの尊さを痛感しており、絵本などの創作を通じ、訴え続けていたのだ。
ぼくはじぶんの頭で考える自由を手にしている。なにかがおこったら、シンプルで実用的な解決法を探しながら、じぶん自身や他人の深部を掘り下げるのが好きだ。
理屈の通らない不条理な状況に置かれても、ぼくは現実を見続ける。まるで、針葉樹でもないカシの木が、冬がやってきても必死で葉っぱをまとい続けようとがんばるみたいにね。人生とは、不公平で暴力にあふれた世界を乗り越えていく試練なのだから、前もって子どもたちに忠告してやったほうがいい。
この本は、フランスの雑誌「フィロゾフィー・マガジン」の連載企画で、子どもの素朴な疑問にウンゲラーが答えるという連載をまとめたものだ。「どうして勉強しないといけないの?」「戦争に勝ったらなにがもらえるの?」「時間って、なあに?」という、子どもたちが日ごろ考えている、素朴だが哲学的な問いに対して、決してはぐらかしたりせずに、真剣に答える。もちろん持ち前のユーモアは健在だ。
「死んだあとも、考えられるの?」という問いに対して、彼は「ぼくが知っている限り、この質問にはだれも答えられない」と前置きをした上で、こう答えている。
きみの考えはきみだけのもので、きみをほかの人と区別するもの。それは、ぼくたちに与えられた本当に貴い権利なんだ。もし、あの世でもしっかりと考え続けられたら、ぼくたちはもうなににも縛られることはないし、永遠に自由でいられる。
全身を真っ黒なマントで覆い、手には真っ赤なまさかりを持ち、お金持ちから宝石やお金を奪う盗賊の3人組が、ひょんなことから親のいない孤児ティファニーちゃんと出会う。そして、盗んだお金の使い途を初めて考え出して……。誰もが一度は目にしたことのある『すてきな三にんぐみ』を生み出したトミ・ウンゲラー。大胆なグラフィックと色遣い、きわどいユーモアと心温まる物語は、日本で1969年に出版されてから、多くの人たちに愛されている絵本の一冊だろう。
その他にも『へびのクリクター』『ゼラルダと人食い鬼』『エミールくんがんばる』など、たくさんの絵本を世に送り出したウンゲラー。彼を語るキーワードとして、絵本はもちろん掲げられるが、その他に「ユーモアとアイロニー」「反戦、反権力」「エロティシズム」という言葉が挙げられるだろう。そうした多様なウンゲラーの側面についてすべて語るには紙幅足りないので割愛するが、すべての面を知るとより絵本がより味わい深いものになることは間違いない。
『すてきな三にんぐみ』もそうだが、盗賊なのに「すてきな」とはどういうことだろうか? 人から金品を奪っているのに、それを孤児に使う、それって「いい人」なのだろうか? ウンゲラーはすべての活動において、善悪という二元論では決して答えが出ないような、ひと言では言えない気持ちや感情を、ユーモアを交えた絵と言葉で伝え続けてきた。ナチ占領下のアルザスで幼少期を過ごした彼は、「自分自身の頭で考える」ことの尊さを痛感しており、絵本などの創作を通じ、訴え続けていたのだ。
ぼくはじぶんの頭で考える自由を手にしている。なにかがおこったら、シンプルで実用的な解決法を探しながら、じぶん自身や他人の深部を掘り下げるのが好きだ。
理屈の通らない不条理な状況に置かれても、ぼくは現実を見続ける。まるで、針葉樹でもないカシの木が、冬がやってきても必死で葉っぱをまとい続けようとがんばるみたいにね。人生とは、不公平で暴力にあふれた世界を乗り越えていく試練なのだから、前もって子どもたちに忠告してやったほうがいい。
この本は、フランスの雑誌「フィロゾフィー・マガジン」の連載企画で、子どもの素朴な疑問にウンゲラーが答えるという連載をまとめたものだ。「どうして勉強しないといけないの?」「戦争に勝ったらなにがもらえるの?」「時間って、なあに?」という、子どもたちが日ごろ考えている、素朴だが哲学的な問いに対して、決してはぐらかしたりせずに、真剣に答える。もちろん持ち前のユーモアは健在だ。
「死んだあとも、考えられるの?」という問いに対して、彼は「ぼくが知っている限り、この質問にはだれも答えられない」と前置きをした上で、こう答えている。
きみの考えはきみだけのもので、きみをほかの人と区別するもの。それは、ぼくたちに与えられた本当に貴い権利なんだ。もし、あの世でもしっかりと考え続けられたら、ぼくたちはもうなににも縛られることはないし、永遠に自由でいられる。
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