CULTURE
ハンス・J・ウェグナーの名言「椅子は…ときに初めて完成する。」【本と名言365】
May 8, 2024 | Culture, Design | casabrutus.com | photo_Yuki Sonoyama text_Yoko Fujimori illustration_Yoshifumi Takeda design_Norihiko Shimada(paper)
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。デンマークが生んだ稀代の“チェアメーカー”、ハンス・J・ウェグナー。「CH24 Yチェア」や「チャイニーズチェア」といった名作の美しさは世界的スタンダードとなり、時代を経た今も色褪せることがない。そのデザイン理念の根底には、木への深い造詣と、家具職人から出発した“道具を造る”という揺るがぬ視線があった。
椅子は、そこに人が座ったときに初めて完成する。
おそらく「人に最も近い家具」である椅子。身体を直接、長時間預けるものだからこそ細密なディテールが必要となる。そうした最も身近で、だからこそ造形が難しい椅子の普遍的名作を数多く発表したのがハンス・J・ウェグナーだろう。生涯で実に500脚以上をデザインし、デザイン史の中でも傑出した足跡を遺す“チェアメーカー”である。
ウェグナーは生涯に渡り、デザインにおいて「事物をできる限りシンプルで純粋に表現すること(中略)、木に魂と生命力を与えること」という基本理念を持ち続けた。「私はシンプルに製作でき、適切な素材が使用され、誰にも気に入ってもらえるものを作りたい」と。
彼は椅子をデザインする際、常に “デンマークの森に住む良き職人だったら、これを手作業でどう造るか”を考えたという。13歳から家具職人の修行を重ね、コペンハーゲンの美術工芸学校を経てデザイナーの才能を開花させた氏の根底には、職人としての技術と知識、木に対する深い造詣があった。例えば通称「Yチェア」は、無垢のトネリコやブナ、オーク材などを用い、曲げ木、成形合板、削り出しという3つの加工を施し、木材の無駄を極力省いた美しい接合部から形成されている。
「構造は端正かつ適正でなくてはなりません。(中略)そしてディティールがしっかりしていることが重要です。私はディテールをよく見て、触れてみます。人は家具店で家具に触れ、“手で見る”。触覚による観察は体験の多くの部分を占めていますから」。
よく、デザイン論で見受けられるのがアートと混同して語られることだろう。ウェグナーは「私は自分が芸術作品を作成していると考えたことはありません。ただ良い椅子を作りたいと考えていただけ」と明言している。
デザインとアートとの違いの一つは、前者が優れた道具を造り出すことによって、使う側が抱える問題を解決できること。だからウェグナー は「椅子は、そこに人が座ったときに初めて完成する」と語るのだ。鑑賞するのでなく、使うことで完成する。ユーザーとの良き相互関係は、ウェグナーのデザイン全体を貫くテーマであり、決して妥協しなかった点であった。
最後に、氏の人柄を表す言葉をもう一つ。「家具を買うときには、それをひっくり返してみることです。もし底の部分がしっかりできていれば、全体もまた然り。もちろんその逆も。家具には統一性が必要であり、裏面があってはならないのです。(中略)あらゆる角度から観察されて、どの側面も視線に耐えうるものでなくては」。
座り心地や背骨を支える背もたれのフィット感、立ち上がるときに握るグリップの滑らかな手触り。そして掃除の際などに椅子を持ち上げ、ふと底面を目にした時の美しさ。こうしたディテールの一つひとつが使う人々を魅了し、また時代を超えデザイナーたちにインスピレーションを与え続けるのだろう。 “神は細部に宿る”。その言葉を体現するのが、家具職人の心を持ち続けたウェグナーの椅子たちなのだ。
おそらく「人に最も近い家具」である椅子。身体を直接、長時間預けるものだからこそ細密なディテールが必要となる。そうした最も身近で、だからこそ造形が難しい椅子の普遍的名作を数多く発表したのがハンス・J・ウェグナーだろう。生涯で実に500脚以上をデザインし、デザイン史の中でも傑出した足跡を遺す“チェアメーカー”である。
ウェグナーは生涯に渡り、デザインにおいて「事物をできる限りシンプルで純粋に表現すること(中略)、木に魂と生命力を与えること」という基本理念を持ち続けた。「私はシンプルに製作でき、適切な素材が使用され、誰にも気に入ってもらえるものを作りたい」と。
彼は椅子をデザインする際、常に “デンマークの森に住む良き職人だったら、これを手作業でどう造るか”を考えたという。13歳から家具職人の修行を重ね、コペンハーゲンの美術工芸学校を経てデザイナーの才能を開花させた氏の根底には、職人としての技術と知識、木に対する深い造詣があった。例えば通称「Yチェア」は、無垢のトネリコやブナ、オーク材などを用い、曲げ木、成形合板、削り出しという3つの加工を施し、木材の無駄を極力省いた美しい接合部から形成されている。
「構造は端正かつ適正でなくてはなりません。(中略)そしてディティールがしっかりしていることが重要です。私はディテールをよく見て、触れてみます。人は家具店で家具に触れ、“手で見る”。触覚による観察は体験の多くの部分を占めていますから」。
よく、デザイン論で見受けられるのがアートと混同して語られることだろう。ウェグナーは「私は自分が芸術作品を作成していると考えたことはありません。ただ良い椅子を作りたいと考えていただけ」と明言している。
デザインとアートとの違いの一つは、前者が優れた道具を造り出すことによって、使う側が抱える問題を解決できること。だからウェグナー は「椅子は、そこに人が座ったときに初めて完成する」と語るのだ。鑑賞するのでなく、使うことで完成する。ユーザーとの良き相互関係は、ウェグナーのデザイン全体を貫くテーマであり、決して妥協しなかった点であった。
最後に、氏の人柄を表す言葉をもう一つ。「家具を買うときには、それをひっくり返してみることです。もし底の部分がしっかりできていれば、全体もまた然り。もちろんその逆も。家具には統一性が必要であり、裏面があってはならないのです。(中略)あらゆる角度から観察されて、どの側面も視線に耐えうるものでなくては」。
座り心地や背骨を支える背もたれのフィット感、立ち上がるときに握るグリップの滑らかな手触り。そして掃除の際などに椅子を持ち上げ、ふと底面を目にした時の美しさ。こうしたディテールの一つひとつが使う人々を魅了し、また時代を超えデザイナーたちにインスピレーションを与え続けるのだろう。 “神は細部に宿る”。その言葉を体現するのが、家具職人の心を持ち続けたウェグナーの椅子たちなのだ。
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