CULTURE
【本と名言365】ハンス・J・ウェグナー|「一生でたった一脚のいい椅子を…」
October 18, 2023 | Culture | casabrutus.com | photo_Miyu Yasuda text_Yoshinao Yamada illustration_Yoshifumi Takeda design_Norihiko Shimada(paper)
これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。生涯で500を超える椅子をデザインしたハンス・J・ウェグナー。そのデザインはいまも数多く愛されているが、彼は自身の名作をどのように考えていたのだろう。
一生でたった一脚のいい椅子をデザインできればいい……けれど、それこそが最も難しいことなのだ。
CH24、日本でもあまりに有名なこの椅子を正式名称で知る人は少ないかもしれない。その名はYチェア。世界的に人気はあるものの特に日本での人気が高く、背もたれの形状から名づけられた愛称がよく知られる。ちなみにアメリカではウィッシュボーンチェアの名で愛されている。この名作椅子をデザインしたのはデンマーク家具の巨匠、ハンス・J・ウェグナー。生涯を通じて500点超の椅子をデザインしたことで知られ、その多くはいまも生産が続けられている。
ウェグナーは13歳から家具職人のもとで技術を学び始め、17歳で家具職人のマイスター資格を取得。その後も兵役を経て、コペンハーゲン美術工芸学校で家具設計を学ぶ。卒業後は建築家のアルネ・ヤコブセンの事務所に勤務し、いまも現役で活躍するヤコブセン設計のオーフス市庁舎に納める家具をデザインしたという。その後独立したウェグナーはまず《チャイニーズチェア》で知られるようになる。これはデンマークのモダン家具デザインの父、コーア・クリントが提唱した「リデザイン」に刺激を受けた椅子だ。ウェグナーは中国・明代の椅子やイギリスのウィンザーチェアなどの古典的な椅子を研究し、それを応用した椅子をいくつも発表している。
Yチェアもまた、中国・明代の椅子をデザインの起源とする。ここでウェグナーは古典に範を採りながら、アームと背もたれを一体化するという当時の椅子には見られなかった試みにも挑んでいる。さらにアームと背もたれを一体化したパーツは曲げ木、Y字は成形合板、他は無垢材の削り出しと、用途に応じて3つの加工を用いた上で座面は手作業のペーパーコードとした。こうした名作を次々と発表していったウェグナーはデンマーク家具を代表する存在となり、デニッシュモダンを牽引していく。そんなウェグナー自身は1952年、「一生でたった一脚のいい椅子をデザインできればいい……けれど、それこそが最も難しいことなのだ。(原文:If only you could design just one good chair in your life...But you simply cannot.)」と語っている。
しかしウェグナーの数多い名作からたった一脚だけを彼の代表作に選ぶのはかえって困難を極める。ウェグナー自身はより純粋なものとするため、必要最小限まで無駄をそぎ落としていくのがデザインだと語った。そしてそのフォルムやディテールは、家具職人として学んだ技術と知識、木材への深い造詣と探究心を礎とするものだ。いまは天国で暮らすウェグナー、果たして彼は自らデザインした椅子のどれに座っているのだろうか。
CH24、日本でもあまりに有名なこの椅子を正式名称で知る人は少ないかもしれない。その名はYチェア。世界的に人気はあるものの特に日本での人気が高く、背もたれの形状から名づけられた愛称がよく知られる。ちなみにアメリカではウィッシュボーンチェアの名で愛されている。この名作椅子をデザインしたのはデンマーク家具の巨匠、ハンス・J・ウェグナー。生涯を通じて500点超の椅子をデザインしたことで知られ、その多くはいまも生産が続けられている。
ウェグナーは13歳から家具職人のもとで技術を学び始め、17歳で家具職人のマイスター資格を取得。その後も兵役を経て、コペンハーゲン美術工芸学校で家具設計を学ぶ。卒業後は建築家のアルネ・ヤコブセンの事務所に勤務し、いまも現役で活躍するヤコブセン設計のオーフス市庁舎に納める家具をデザインしたという。その後独立したウェグナーはまず《チャイニーズチェア》で知られるようになる。これはデンマークのモダン家具デザインの父、コーア・クリントが提唱した「リデザイン」に刺激を受けた椅子だ。ウェグナーは中国・明代の椅子やイギリスのウィンザーチェアなどの古典的な椅子を研究し、それを応用した椅子をいくつも発表している。
Yチェアもまた、中国・明代の椅子をデザインの起源とする。ここでウェグナーは古典に範を採りながら、アームと背もたれを一体化するという当時の椅子には見られなかった試みにも挑んでいる。さらにアームと背もたれを一体化したパーツは曲げ木、Y字は成形合板、他は無垢材の削り出しと、用途に応じて3つの加工を用いた上で座面は手作業のペーパーコードとした。こうした名作を次々と発表していったウェグナーはデンマーク家具を代表する存在となり、デニッシュモダンを牽引していく。そんなウェグナー自身は1952年、「一生でたった一脚のいい椅子をデザインできればいい……けれど、それこそが最も難しいことなのだ。(原文:If only you could design just one good chair in your life...But you simply cannot.)」と語っている。
しかしウェグナーの数多い名作からたった一脚だけを彼の代表作に選ぶのはかえって困難を極める。ウェグナー自身はより純粋なものとするため、必要最小限まで無駄をそぎ落としていくのがデザインだと語った。そしてそのフォルムやディテールは、家具職人として学んだ技術と知識、木材への深い造詣と探究心を礎とするものだ。いまは天国で暮らすウェグナー、果たして彼は自らデザインした椅子のどれに座っているのだろうか。
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