CULTURE
【本と名言365】濱田庄司|「十五秒プラス六十年」
October 14, 2023 | Culture | photo_Miyu Yasuda text_Mariko Uramoto illustration_Yoshifumi Takeda design_Norihiko Shimada(paper)
これまでになかった手法で、新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。民藝運動の中心的な活動家の1人であり、益子焼の中興の祖となった濱田庄司。自身が得意とした流掛の制作過程から名言が生まれました。
十五秒プラス六十年
これまでに見向きもされなかった素朴な日用品の中に「用の美」を見出し、世に紹介することを目的に、柳宗悦や河井寛次郎らと民藝運動を牽引していた陶芸家の濱田庄司。京都、沖縄、イギリスなどで作陶生活を送りながら、1930年からは、栃木・益子に居を定め、現地の土と釉薬を基本とした独自の作風を確立。気をてらわず、力強く、堅実な作品を数多く残した。こうした実直な物作りによって益子焼を芸術にまで押し上げた功績を認められ、1955年には民藝登記の人間国宝に認定される。
濱田作品の特徴は、手ろくろを使ったシンプルな造形と多彩な釉調、大胆な模様だ。高い美意識を兼ね備えながらも使いやすい出来栄えで、「用の美」を具現化したのだ。とりわけ濱田作品の中でも人気が高いのが、流掛の意匠を施した作品だろう。
流掛とは釉薬を柄杓で流しかける技法で、これによって無作為で大胆な模様を施すことができる。濱田の施釉の速さは有名で、60cmの大皿に釉薬をあっという間にかけ終えてしまうのだという。ある時、濱田の工房に来ていた人が流掛の様子を見てこう言った。「これだけの大皿に対する釉掛(くすりがけ)十五秒ぐらいきりかからないのは、あまりに速過ぎて物足りなくはないか」と。たったの15秒で終わってしまうことがあっけなく、物足りなかったのだろう。それに対して濱田はこう答えた。「これは十五秒プラス六十年と見たらどうだ」。
60年の知識と経験、たゆまぬ努力によって体に叩き込まれた技がわずか15秒の絵付けを揺るぎないものにする。手の感覚のみを頼りにした作為のない濱田作品に今のなお多くの人が惹かれる理由がわかる。
これまでに見向きもされなかった素朴な日用品の中に「用の美」を見出し、世に紹介することを目的に、柳宗悦や河井寛次郎らと民藝運動を牽引していた陶芸家の濱田庄司。京都、沖縄、イギリスなどで作陶生活を送りながら、1930年からは、栃木・益子に居を定め、現地の土と釉薬を基本とした独自の作風を確立。気をてらわず、力強く、堅実な作品を数多く残した。こうした実直な物作りによって益子焼を芸術にまで押し上げた功績を認められ、1955年には民藝登記の人間国宝に認定される。
濱田作品の特徴は、手ろくろを使ったシンプルな造形と多彩な釉調、大胆な模様だ。高い美意識を兼ね備えながらも使いやすい出来栄えで、「用の美」を具現化したのだ。とりわけ濱田作品の中でも人気が高いのが、流掛の意匠を施した作品だろう。
流掛とは釉薬を柄杓で流しかける技法で、これによって無作為で大胆な模様を施すことができる。濱田の施釉の速さは有名で、60cmの大皿に釉薬をあっという間にかけ終えてしまうのだという。ある時、濱田の工房に来ていた人が流掛の様子を見てこう言った。「これだけの大皿に対する釉掛(くすりがけ)十五秒ぐらいきりかからないのは、あまりに速過ぎて物足りなくはないか」と。たったの15秒で終わってしまうことがあっけなく、物足りなかったのだろう。それに対して濱田はこう答えた。「これは十五秒プラス六十年と見たらどうだ」。
60年の知識と経験、たゆまぬ努力によって体に叩き込まれた技がわずか15秒の絵付けを揺るぎないものにする。手の感覚のみを頼りにした作為のない濱田作品に今のなお多くの人が惹かれる理由がわかる。
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