CULTURE
オノ セイゲンが語るユーリー・ノルシュテインの音。
December 14, 2016 | Culture | a wall newspaper | photo_Takashi Kashiwadani editor & text_Yuka Uchida
アニメーションの神様、ユーリー・ノルシュテイン監督。特集上映のためにオノさんが音をマスタリングしました。
ロシアのアニメーション作家、ユーリー・ノルシュテインは、宮﨑駿や高畑勲、遡れば手塚治虫までも魅了した、生きるアニメ界の神様。日本では久しぶりの特集上映が12月10日より全国を巡回する。しかも今回はデジタルリマスター版。映像も音も格段に美しくなっているのだ。音声のマスタリングを手がけた音響エンジニアのオノ セイゲンに話を聞いた。
Q 具体的にどんな修復を?
今回はラッキーで大本の磁気テープが残っていたんです。そこから音を拾って、丹念にノイズを取り除いたり、聞こえづらい音のボリュームを微妙に上げたりしました。たとえるなら、汚れたガラス窓を掃除するようなイメージです。
Q デジタルリマスター版は音の粒が際立っていますね。
これまで上映されたり、DVDになっているフィルム素材は、残念ながらカセットテープ以下の音質でした。今回は磁気テープとはいえ、古いものなので、全編にはサーッというノイズが入っていて。ただ取り除きすぎると音のキャラクターが消えてしまうので注意しつつ、監督が制作時に目指した音を再現することに努めました。
Q 音の特徴は?
とてもアバンギャルドです。最近の映画は音量や音圧が派手ですが、ノルシュテイン監督の作品には静寂があります。だからこそ強い音が印象に残る。さらに素晴らしいのは、映像だけ見ても音が聞こえるし、音だけ聞いても映像が浮かぶこと。「映画の半分は音だ」という名言がありますが、そのことが実感できる作品です。
Q お気に入りの音は?
一番は『25日・最初の日』に流れるショスタコーヴィチの交響曲。『霧の中のハリネズミ』に出てくる弦楽器のトレモロ(震音)やピアニッシモ(弱音)もいいです。僕に言わせれば、監督の作品は色彩までも音を奏でているんです。
オノ セイゲン
録音エンジニア、音響デザイナー、作曲家。アート・リンゼイ、坂本龍一など国内外の多くのミュージシャンが絶大なる信頼を寄せる。名作洋画のデジタルリマスターも数多く手がけている。
ユーリー・ノルシュテイン監督特集上映『アニメーションの神様、その美しき世界』
12月10日より、シアター・イメージフォーラムにて『霧の中のハリネズミ』『話の話』『アオサギとツル』など代表作6作を上映。その後全国順次公開。公式サイト