CULTURE
agraphが最新機からひもとくシンセサイザーと木の歴史。
March 25, 2016 | Culture | a wall newspaper | photo_Shinichiro Fujita text_Katsumi Watanabe
YMOやクラフトワークが作った電子音楽を聴くと、なぜ安心するのか。理由がなんとなくわかりました。
Q これシンセサイザーですか?
アメリカの〈monome〉社製、パソコン内のソフトシンセサイザーをリアルタイムで演奏することができるサウンドコントローラーです。写真右の《grid》には128個のボタンがあり、ソフトによって操作は異なりますが、鍵盤のように演奏ができるし、ボタンを押して音を鳴らすこともできる。4つのダイヤルからなる《arc》も用途はさまざまで、音階を変えたり、音を伸ばすなどできます。ここまでリアルタイムで操作できるコントローラーはなかったので、動かしているのはパソコン内のソフトですが、まるで楽器を弾いているような感覚になる。出る音に、生演奏のような温もりが生まれるのも、また不思議なんですよね。
Q デザインも木目でかわいい。音楽家じゃなくても気になります。
今回、お話ししたいのは、まさにそこなんですよ。僕は現在20台ほどのシンセサイザーを所有しているのですが、改めて見直したところ、大半の楽器の一部に木が使われているんです。シンセが並ぶと無機質に感じますが、実は木の温もりであふれていたんですよ。
Q シンセサイザーは、電子的な音やサウンドを作る楽器だから、木の印象はありませんよね。
民生用に発売された直後の60年代なら、コストの問題もあったと思います。しかし、鉄やアルミが普及した現在でも、多くの楽器に木が使われているんです。
Q なぜだと考えられます?
1917年に発明されたテルミン、そして65年発表のモーグなど、昔からシンセのボディには、木の板が使われてきました。こうした機材に触れて育った人たちが開発者になったとき、意識に擦り込まれているので、自然に木の材料を使ったのではないかと。例えば、YMOも使用していたプロフェットファイヴ(78年発表)など、鍵盤の側面はサイドウッドという板でできています。別に木製である必要はないと思いますが、脈々と伝統が受け継がれた結果、木が使われていると考えられます。
Q フェティッシュな感覚ですね。
木が使われているかどうかが、シンセマニアの購買意欲をくすぐるポイントになっていると思います。マイクロ・コルグ(2002年発表)という楽器の試作段階の最後で、KORG社の社長さんが、ボディの一部に木を使うよう指令を下した、という噂があります。結果、大ヒット楽器になりましたが、その要因のひとつは、木を使ったことにあったんじゃないかな。
Q しかし、木だと傷がついたり、傷むんじゃないですか?
ヴィンテージ市場では、もちろん機材が通常に使用できるかも重要ですが、木目がキレイかどうかで価格が変わってくるんです。僕もプロフェットファイヴを購入しましたが、サイドウッドの木目が気に入らないので、家具職人さんと相談して、そこだけ新しいものに変えようと思っています。
Q 〈monome〉の楽器なんて、たまらないものがあるのでは?
ホントに(笑)。新作の制作時には欠かせませんでした。《grid》は4枚の板で実機の側面を囲んで作ってありますが、《arc》は長方形の木片の中央を削り、実機を埋め込んでいます。見た瞬間“わかってるなぁ〜!”と感心しました。
アメリカの〈monome〉社製、パソコン内のソフトシンセサイザーをリアルタイムで演奏することができるサウンドコントローラーです。写真右の《grid》には128個のボタンがあり、ソフトによって操作は異なりますが、鍵盤のように演奏ができるし、ボタンを押して音を鳴らすこともできる。4つのダイヤルからなる《arc》も用途はさまざまで、音階を変えたり、音を伸ばすなどできます。ここまでリアルタイムで操作できるコントローラーはなかったので、動かしているのはパソコン内のソフトですが、まるで楽器を弾いているような感覚になる。出る音に、生演奏のような温もりが生まれるのも、また不思議なんですよね。
Q デザインも木目でかわいい。音楽家じゃなくても気になります。
今回、お話ししたいのは、まさにそこなんですよ。僕は現在20台ほどのシンセサイザーを所有しているのですが、改めて見直したところ、大半の楽器の一部に木が使われているんです。シンセが並ぶと無機質に感じますが、実は木の温もりであふれていたんですよ。
Q シンセサイザーは、電子的な音やサウンドを作る楽器だから、木の印象はありませんよね。
民生用に発売された直後の60年代なら、コストの問題もあったと思います。しかし、鉄やアルミが普及した現在でも、多くの楽器に木が使われているんです。
Q なぜだと考えられます?
1917年に発明されたテルミン、そして65年発表のモーグなど、昔からシンセのボディには、木の板が使われてきました。こうした機材に触れて育った人たちが開発者になったとき、意識に擦り込まれているので、自然に木の材料を使ったのではないかと。例えば、YMOも使用していたプロフェットファイヴ(78年発表)など、鍵盤の側面はサイドウッドという板でできています。別に木製である必要はないと思いますが、脈々と伝統が受け継がれた結果、木が使われていると考えられます。
Q フェティッシュな感覚ですね。
木が使われているかどうかが、シンセマニアの購買意欲をくすぐるポイントになっていると思います。マイクロ・コルグ(2002年発表)という楽器の試作段階の最後で、KORG社の社長さんが、ボディの一部に木を使うよう指令を下した、という噂があります。結果、大ヒット楽器になりましたが、その要因のひとつは、木を使ったことにあったんじゃないかな。
Q しかし、木だと傷がついたり、傷むんじゃないですか?
ヴィンテージ市場では、もちろん機材が通常に使用できるかも重要ですが、木目がキレイかどうかで価格が変わってくるんです。僕もプロフェットファイヴを購入しましたが、サイドウッドの木目が気に入らないので、家具職人さんと相談して、そこだけ新しいものに変えようと思っています。
Q 〈monome〉の楽器なんて、たまらないものがあるのでは?
ホントに(笑)。新作の制作時には欠かせませんでした。《grid》は4枚の板で実機の側面を囲んで作ってありますが、《arc》は長方形の木片の中央を削り、実機を埋め込んでいます。見た瞬間“わかってるなぁ〜!”と感心しました。
アグラフ
牛尾憲輔のソロユニット。2003年からテクニカルエンジニアなど、電気グルーヴや石野卓球の作品に携わる。agraph名義で『a day, phases』(08年)、『equal』(10年)の2枚を発表、TVアニメ『ピンポン』などの劇伴なども手がける。最新作『the shader』(写真)を発表したばかり。