ART
大原大次郎と田中義久。互いの仕事を考察する。
『カーサ ブルータス』2019年2月号より
January 17, 2019 | Art | a wall newspaper | photo_Natsumi Kakuto text_Yuka Uchida
グラフィックデザインにおける”プロセスの重要さ。その事に気付かされる自由研究のような展覧会です。
グラフィックデザイナーの大原大次郎と田中義久が二人展を開催している。発表するのは、互いのデザインを考察”した、そのプロセス。仕事の総括でもなければ、新作のお披露目でもないという。2人の試みについて話を聞いた。
Q 展覧会名『大原の身体 田中の生態』にはどのような意図が?
田中 お互いがデザインの中心に据えている行為を言葉に置き換えてみたら、大原は「身体」、僕は「生態」となりました。
大原 僕は描き文字をはじめ、手で考えるタイプですし、田中は構造で考えるタイプ。しかも、田中の考える構造はモノのデザインに収まっていない。書店をディレクションしたり、本の流通方法を開拓したり、ひとつの生態系を生み出すように物事を考えています。
田中 もちろん、身体性を伴わずに定着するデザインはないし、何かをアウトプットすれば、自分自身を超えて派生して、自然と生態系をなしていくこともある。なので、このキーワードはそれぞれに当てはまる部分もあるのですが、一旦、この言葉を掲げて、お互いを研究してみることにしました。
Q 展覧会名『大原の身体 田中の生態』にはどのような意図が?
田中 お互いがデザインの中心に据えている行為を言葉に置き換えてみたら、大原は「身体」、僕は「生態」となりました。
大原 僕は描き文字をはじめ、手で考えるタイプですし、田中は構造で考えるタイプ。しかも、田中の考える構造はモノのデザインに収まっていない。書店をディレクションしたり、本の流通方法を開拓したり、ひとつの生態系を生み出すように物事を考えています。
田中 もちろん、身体性を伴わずに定着するデザインはないし、何かをアウトプットすれば、自分自身を超えて派生して、自然と生態系をなしていくこともある。なので、このキーワードはそれぞれに当てはまる部分もあるのですが、一旦、この言葉を掲げて、お互いを研究してみることにしました。
Q どんな研究をしたんですか?
大原 僕は田中のブックデザインをスケッチで描き起こしたり、発注先の印刷所をマッピングしたりしました。田中の仕事を理解するには、実物の本を並べるのが一番分かりやすいですが、視覚に頼って「画像」としてデザインを読み解く以外の方法で、田中を解剖できないかと考えたんです。フィニッシュワークだけをまとめるのでは取りこぼしてしまうものを、手を動かして探ってみました。
田中 僕の展示物は、大原と一緒に作った和紙です。墨流しや落水といった手漉きの技法に挑戦してもらいました。彼が得意とする描き文字を、書きにくくて、定着しづらい環境でやってもらった。仕上がった和紙は、果たして美しいのかどうかもわからない。でも、ここに大原の身体の痕跡が残っているのは確かです。彼の身体性から生まれるものが何なのか、僕なりの方法ですくい取ってみました。
Q 結果ではなく、プロセスを見せることにこだわった理由は?
田中 デザインは、定着する、つまり完成する以前に必ずプロセスを踏んでいます。完成すると消費される一方ですが、生まれるまでのプロセスにまだ多くの価値あるものが存在していると思うんです。
大原 例えば、あるデザインがすべて手描きで制作されていたという背景に注目する人は多いと思います。でも、プロセスはそれだけじゃなくて、実は立って作っていたとか、場所は北極だったとか、お気に入りの靴下を履いていたとか、そういったことから見えてくるものがあるかもしれない。
Q 研究の手法に、2人の“らしさ”が表れているのも面白いです。大原さんの身体性を研究するための和紙作りに、田中さんらしい「構造(生態)を作る」行為が潜んでいますし、田中さんの本を写したスケッチからは、大原さんの身体性を感じる。互いを研究しているようで、自らの態度表明でもある。来場者にはどんなふうに展示を楽しんでもらいたいですか?
田中 ポスターからして、見所が伝わりづらいと思うんですが、40歳近いおじさん2人がひたすら真面目に取り組んだ研究です(笑)。
大原 そう。それも、すごく地味な方法で(笑)。
田中 そうした態度を示すだけで十分ではないかと思っています。
大原 僕の田中研究だけで言うと、書き写すという誰にでもできる簡単な行為を通して、会話や振る舞いやクセなど、ブックデザインに定着されていない田中の生態も紐解こうとしています。。
田中 デザインの今後を考えるには、他人の仕事に目を向けることも重要。僕らが互いのデザインを検証したそのプロセスが、何かの問い掛けになれば嬉しいです。
大原 僕は田中のブックデザインをスケッチで描き起こしたり、発注先の印刷所をマッピングしたりしました。田中の仕事を理解するには、実物の本を並べるのが一番分かりやすいですが、視覚に頼って「画像」としてデザインを読み解く以外の方法で、田中を解剖できないかと考えたんです。フィニッシュワークだけをまとめるのでは取りこぼしてしまうものを、手を動かして探ってみました。
田中 僕の展示物は、大原と一緒に作った和紙です。墨流しや落水といった手漉きの技法に挑戦してもらいました。彼が得意とする描き文字を、書きにくくて、定着しづらい環境でやってもらった。仕上がった和紙は、果たして美しいのかどうかもわからない。でも、ここに大原の身体の痕跡が残っているのは確かです。彼の身体性から生まれるものが何なのか、僕なりの方法ですくい取ってみました。
Q 結果ではなく、プロセスを見せることにこだわった理由は?
田中 デザインは、定着する、つまり完成する以前に必ずプロセスを踏んでいます。完成すると消費される一方ですが、生まれるまでのプロセスにまだ多くの価値あるものが存在していると思うんです。
大原 例えば、あるデザインがすべて手描きで制作されていたという背景に注目する人は多いと思います。でも、プロセスはそれだけじゃなくて、実は立って作っていたとか、場所は北極だったとか、お気に入りの靴下を履いていたとか、そういったことから見えてくるものがあるかもしれない。
Q 研究の手法に、2人の“らしさ”が表れているのも面白いです。大原さんの身体性を研究するための和紙作りに、田中さんらしい「構造(生態)を作る」行為が潜んでいますし、田中さんの本を写したスケッチからは、大原さんの身体性を感じる。互いを研究しているようで、自らの態度表明でもある。来場者にはどんなふうに展示を楽しんでもらいたいですか?
田中 ポスターからして、見所が伝わりづらいと思うんですが、40歳近いおじさん2人がひたすら真面目に取り組んだ研究です(笑)。
大原 そう。それも、すごく地味な方法で(笑)。
田中 そうした態度を示すだけで十分ではないかと思っています。
大原 僕の田中研究だけで言うと、書き写すという誰にでもできる簡単な行為を通して、会話や振る舞いやクセなど、ブックデザインに定着されていない田中の生態も紐解こうとしています。。
田中 デザインの今後を考えるには、他人の仕事に目を向けることも重要。僕らが互いのデザインを検証したそのプロセスが、何かの問い掛けになれば嬉しいです。
『大原の身体 田中の生態』
同世代のデザイナー大原大次郎と田中義久の二人展。〈クリエイションギャラリーG8〉東京都中央区銀座8-4-17 TEL 03 6835 2260。1月11日〜2月14日。11時〜19時。日曜・祝日休。入場無料。
大原大次郎
おおはらだいじろう 1978年生まれ。2003年武蔵野美術大学卒業、同年独立。タイポグラフィを基軸に、デザインや映像制作、ワークショップなどを行う。
田中義久
たなかよしひさ 1980年生まれ。2004年武蔵野美術大学卒業、08年独立。ブックデザインを主に美術館などのVI計画や、出版社やギャラリーの経営にも携わる。