ART
青野尚子の「今週末見るべきアート」|銀座エルメスで出会った3人の“曖昧な関係”
| Art, Fashion | casabrutus.com | photo & movie_Satoshi Nagare text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
〈銀座メゾンエルメス フォーラム〉で始まった、国籍も年代もばらばらな3人のグループ展。展覧会のタイトルは『曖昧な関係』です。何と何の関係なのか、その関係の何が曖昧なのか、いろいろと考えてしまう意味深なタイトルの展示には、思ったより深い関係がありました。
サステナビリティ(持続可能性)をテーマにしたナイル・ケティングのインスタレーション。部屋じゅうに家電が散らばり、勝手に動いている。無機物がつくる生態系のような空間。
今回のグループ展に参加しているのはフランスの画家、アンヌ・ロール・サクリスト、スイスのジュエリー・デザイナー、ベルンハルト・ショービンガー、ベルリンを拠点にメディアアートやパフォーマンスを発表しているナイル・ケティングの3人だ。
会場の一角に石庭を思わせるインスタレーションを作ったのはアンヌ・ロール・サクリスト。黒い液体のように光を反射する床の上にオブジェが点々と置かれ、竹のような棒が立っている。京都の作庭家であり、庭園の研究者だった重森三玲自邸の庭からインスピレーションを得たという。
「私が興味を持っているのは純粋な自然ではなく、人為的に構成され、洗練された自然というアイデアなのです」(サクリスト)
「私が興味を持っているのは純粋な自然ではなく、人為的に構成され、洗練された自然というアイデアなのです」(サクリスト)
このインスタレーションにはもう一つ、彼女のルーツであるヨーロッパの絵画からのインスピレーションが込められている。イタリアの初期ルネサンスの画家、パオロ・ウッチェロの絵画《サン・ロマーノの戦い》だ。彼は寝食を忘れて遠近法の研究に没頭したという。《サン・ロマーノの戦い》にも厳密な遠近法が適用されている。
「私は画家としてのウッチェロよりも、遠近法を研究した数学者としての彼に惹かれています。この作品は枯山水の庭とウッチェロの絵画の中間を目指して作りました」(サクリスト)
「私は画家としてのウッチェロよりも、遠近法を研究した数学者としての彼に惹かれています。この作品は枯山水の庭とウッチェロの絵画の中間を目指して作りました」(サクリスト)
壁にかかっている絵は一面真っ黒に塗られているように見えるけれど、見る角度を変えると女性のイメージが浮かび上がる。光のわずかな反射で像が見える絵なのだ。ガラスブロックに囲まれたギャラリーでは朝・昼・晩とまったく異なる印象を見せる。通常、絵画は少しぐらい見る位置を変えても違う見え方をすることはない。彼女のインスタレーションは観客の身体や時間の移り変わりを強く意識させる。
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青野尚子
あおのなおこ ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に『新・美術空間散歩』(日東書院新社)、『背徳の西洋美術史』(池上英洋と共著、エムディエヌコーポレーション)、『美術でめぐる西洋史年表』(池上英洋と共著、新星出版社)。
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