
ART
フィリップ・ワイズベッカーが語る、“非日常的な日用品”の美学。
| Art | casabrutus.com | text_Chiyo Sagae
今春、フィリップ・ワイズベッカーが自作する暮らしのオブジェと作品の展覧会が開催され、アーティストのパリでの生活美学を伝える写真集が刊行された。作品に、そして自身の暮らしに、モノや道具への独自の美意識を貫くワイズベッカーに、自作のモノ造りの真髄を聞いた。
フィリップ・ワイズベッカーの一日に密着した写真集『ホモ・ファーベル』が5月1日に刊行された。フィリップ・ワイズベッカーのパリの自宅やアトリエ、その2地点を繋ぐ道すがらの楽しみなど、その1日を写真とともに本人の文章で綴るものとなっている。「シンプルで頑丈、作り方もきわめて簡単」とワイズベッカーが語る木製のスツールをはじめ、ラベルを剥がしたアルミの空き缶が筆立てとして並ぶ棚も。自作の家具やオブジェを配した生活空間は、まさに彼の日常の道具への目線が生む作品世界に通じるものだ。
さらに今回書籍の刊行に合わせて、ワイズベッカーが自身で設計、制作、塗装する生活の道具とともに、これらをモチーフに描く作品を展示した『Life in Artフィリップ・ワイズベッカー「HANDMADE ハンドメイド」展』展が無印良品 銀座『ATELIER MUJI GINZA』で開催中だ。展覧会場に展示されるドローイングとオブジェは販売もされている。ランプや小物入れ、ボトルホルダー、カトラリー入れほか、ワイズベッカー自身もまだ使用したことのない暮らしの新作オブジェが多数製作された。
今回、ワイズベッカー自身に、自身のものづくりの真髄を聞いてみた。
―最初に自分の家具を制作したのはいつ頃ですか?
N.Y.で仕事をしていた70年代末。結婚して構えた新居の本棚など、必要な家具を段ボールで作った。映画の小道具制作用の、厚くて耐久性のある段ボールを使ってね。その後すぐに木製の家具作りを始め、保持していたパリのアトリエも、自作の家具に少しずつ置き換えていった。取り替える前の妻や私の家族がくれた家具の中には、手の込んだ細工や装飾が施されたルイ15世スタイルの家具などもあり、我慢がならなかった(笑)。どんなに価値の高いモノだとしても、私には意味がないから。
ーあなたが作る家具を、一言で言うと?
シンプル、簡素、インダストリアル。そして、自分で制作できるもの。アメリカの田舎の蚤の市で、100年以上前にニューイングランドにやって来たアーリーアメリカンの簡素な家具に出会った。最小限の材料で、スタイルなどこだわらずに作られた頑丈でシンプルな日常の家具。これなら自分でも似たようなものが作れる気がした。私は何ひとつ”創造/クリエート”していない。それは、私が風景画を描かないのと同じこと。道具やモノを観察し、それらの日常のオブジェが示唆するエスプリを譲り受け、私なりの美意識で形にする。それと同じことなんだ。
ー自作家具の塗装の色はいつもグレーですね、なぜですか?
グレーが好き。ベーシックで、インダストリアルな道具の色だから。あえて言えばグレーは色でさえないかもしれない。黒と白の間にあり、強すぎず、カラーに対してのモノクローム。だから、アトリエのオブジェは全てグレーにしているけれど、自然光溢れる自宅の家具はクリームに近い白で塗装している。以前通っていたバルセローナのアパルトマンの家具は、カタローニャ伝統のイングリッシュ・レッド(茶系の赤)で塗っていたり。家具のフォームにきちんとストラクチャーがあるので、実は何色でもうまくいくんだ。
ー今回の展示では、日常使いのさまざまなオブジェを新たに製作していますが、家具は小さ目のスツールですね?
スツールは、自宅やアトリエでサイズの異なる多数の自作を使っています。使用する空間の中での美しいプロポーションを求めているので、今回製作したものも単なるコピーではありません。テーブルや大き目の棚など、今回実物を展示できないものはペインティング作品として描き、展示しています。
―最初に自分の家具を制作したのはいつ頃ですか?
N.Y.で仕事をしていた70年代末。結婚して構えた新居の本棚など、必要な家具を段ボールで作った。映画の小道具制作用の、厚くて耐久性のある段ボールを使ってね。その後すぐに木製の家具作りを始め、保持していたパリのアトリエも、自作の家具に少しずつ置き換えていった。取り替える前の妻や私の家族がくれた家具の中には、手の込んだ細工や装飾が施されたルイ15世スタイルの家具などもあり、我慢がならなかった(笑)。どんなに価値の高いモノだとしても、私には意味がないから。
ーあなたが作る家具を、一言で言うと?
シンプル、簡素、インダストリアル。そして、自分で制作できるもの。アメリカの田舎の蚤の市で、100年以上前にニューイングランドにやって来たアーリーアメリカンの簡素な家具に出会った。最小限の材料で、スタイルなどこだわらずに作られた頑丈でシンプルな日常の家具。これなら自分でも似たようなものが作れる気がした。私は何ひとつ”創造/クリエート”していない。それは、私が風景画を描かないのと同じこと。道具やモノを観察し、それらの日常のオブジェが示唆するエスプリを譲り受け、私なりの美意識で形にする。それと同じことなんだ。
ー自作家具の塗装の色はいつもグレーですね、なぜですか?
グレーが好き。ベーシックで、インダストリアルな道具の色だから。あえて言えばグレーは色でさえないかもしれない。黒と白の間にあり、強すぎず、カラーに対してのモノクローム。だから、アトリエのオブジェは全てグレーにしているけれど、自然光溢れる自宅の家具はクリームに近い白で塗装している。以前通っていたバルセローナのアパルトマンの家具は、カタローニャ伝統のイングリッシュ・レッド(茶系の赤)で塗っていたり。家具のフォームにきちんとストラクチャーがあるので、実は何色でもうまくいくんだ。
ー今回の展示では、日常使いのさまざまなオブジェを新たに製作していますが、家具は小さ目のスツールですね?
スツールは、自宅やアトリエでサイズの異なる多数の自作を使っています。使用する空間の中での美しいプロポーションを求めているので、今回製作したものも単なるコピーではありません。テーブルや大き目の棚など、今回実物を展示できないものはペインティング作品として描き、展示しています。
ーこれらを家に持ち帰る人々に、メッセージをいただけますか?
私の作るオブジェのフォームは、それ自体で完結しています。家具やランプは使いながらも眺められるでしょう。けれど、たとえば鉛筆立てや小物入れなどを購入した人の誰か一人は、中に何も入れないで置いてほしい。ひとつの美学として、その造形を眺めてもらえたら嬉しいのです。
ー使われないことで美しさの際立つ日用品。非日常的な日常のオブジェ?
まさしく。そう感じてもらえたら、この上なく幸せですね。
私の作るオブジェのフォームは、それ自体で完結しています。家具やランプは使いながらも眺められるでしょう。けれど、たとえば鉛筆立てや小物入れなどを購入した人の誰か一人は、中に何も入れないで置いてほしい。ひとつの美学として、その造形を眺めてもらえたら嬉しいのです。
ー使われないことで美しさの際立つ日用品。非日常的な日常のオブジェ?
まさしく。そう感じてもらえたら、この上なく幸せですね。
Philippe Weisbecker
フィリップ・ワイズベッカー 1942年生まれ。パリの仏国立高等装飾美術学校を卒業後、1968年にN.Y.へ。広告や書籍・雑誌のイラストレーションを多数手がけながらアートワークも制作。2006年フランスに帰国。モノや道具への特異な視点とシンプルで繊細な表現に日本にもファンは多く、広告やポスター、作品集出版ほか、個展を日本で開催。
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