ART
絵画と写真の境界を揺さぶる鬼才の画家、 ゲルハルト・リヒターの18作品が集結。
『カーサ ブルータス』2022年1月号より
December 9, 2021 | Art, Design, Fashion, Travel | photo_Makoto Ito text_Mari Matsubara
2022年~23年に日本で大規模展覧会が予定されているドイツの巨匠画家、ゲルハルト・リヒター。それに先んじて〈エスパス ルイ・ヴィトン大阪〉ではリヒターの抽象作品18点を集めた展覧会が開催され、早くも話題になっている。
絵画と写真とデジタルの狭間に翻弄される幻惑の展覧会。
作品のオークション落札額が存命アーティストの中ではトップクラスであり、現役で活躍する最も重要な画家の一人とされるゲルハルト・リヒター。作品スタイルや手法を変化させるたびに、鑑賞者の認識をかき回し、うろたえさせ、驚かせてきた。次はどんな作品を? と目を離さずにはいられない御齢89歳のペインターの作品を今、〈エスパス ルイ・ヴィトン大阪〉で鑑賞することができる。〈フォンダシオン ルイ・ヴィトン〉が所蔵するリヒター作品のうち、80年代から2010年代の抽象作品18点、うち2点の油彩はフォンダシオンのコレクションとして世界初お目見えなので、見逃せない。
広い空間は壁で仕切られ、手前の小さな展示スペースには写真の上に油彩やラッカーで色を塗った《Overpaint》シリーズが並ぶ。紙焼き写真はほとんど塗りつぶされ、写された風景は隠され、新たな抽象表現にすり替わっている。眺めていても一向に「見る」対象がつかめず、どこか不穏さが漂う。
奥に進むと一転、色の洪水が押し寄せてくる。正面には《Lilak》とタイトルがついた油彩の大型2連画が明るい光を放っている。リヒターと言えばスクイージーという、ゴム製ブード付きワイパーで絵の具の多色層を掻き落とした抽象画が有名だが、その手法を用いたと思われる油彩画も展示されている。また、ガラス板に押しつけられ広げられた顔料がマーブルのように混じり合う《Flow》シリーズも、見ていると渦巻く色彩海に引きずり込まれそうな感覚に陥る。
広い空間は壁で仕切られ、手前の小さな展示スペースには写真の上に油彩やラッカーで色を塗った《Overpaint》シリーズが並ぶ。紙焼き写真はほとんど塗りつぶされ、写された風景は隠され、新たな抽象表現にすり替わっている。眺めていても一向に「見る」対象がつかめず、どこか不穏さが漂う。
奥に進むと一転、色の洪水が押し寄せてくる。正面には《Lilak》とタイトルがついた油彩の大型2連画が明るい光を放っている。リヒターと言えばスクイージーという、ゴム製ブード付きワイパーで絵の具の多色層を掻き落とした抽象画が有名だが、その手法を用いたと思われる油彩画も展示されている。また、ガラス板に押しつけられ広げられた顔料がマーブルのように混じり合う《Flow》シリーズも、見ていると渦巻く色彩海に引きずり込まれそうな感覚に陥る。
これは絵画なのか? 写真なのか?
圧巻なのは、2011年に発表された傑作《Strip》の2点だろう。これは1990年に制作された絵画《Abstract Painting[724-4]》をデジタルスキャンし、そのデータを縦に2分割する。さらにそれを4本、8本、16本……と分割を12回繰り返すと、幅がわずか0.08㎜の8190本の帯(ストリップ)が出来上がる。その1本1本をミラーリングし、それを繰り返していくと、やがて不思議なことにマルチカラーの水平線が現れるのだ。複雑なプロセスはさておき、この作品を凝視すると視線はピントを失い、奥行きの感覚が奪われてめまいがするようだ。
これは絵画なのか写真なのかという問いは、まさにリヒターが生涯をかけて取り組んできた命題に直結している。絵画性とは何か、絵画でしか表現できないものは何かを追求するリヒターの思索を、この展覧会で追走したい。
これは絵画なのか写真なのかという問いは、まさにリヒターが生涯をかけて取り組んできた命題に直結している。絵画性とは何か、絵画でしか表現できないものは何かを追求するリヒターの思索を、この展覧会で追走したい。
GERHARD RICHTER ABSTRAKT SELECTED WORKS FROM THE COLLECTION
〈フォンダシオン ルイ・ヴィトン〉の所蔵作品に触れる機会を世界の多くの人々に提供する「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラムの一環でゲルハルト・リヒターの18作品を展示。
●〈エスパス ルイ・ヴィトン大阪〉大阪府大阪市中央区心斎橋筋2-8-16 ルイ・ヴィトンメゾン 大阪御堂筋 5F TEL 0120 00 1854。~2022年4月17日。12時~20時。休館日は店舗に準じる。入場無料。
ゲルハルト・リヒター
1932年独・ノイシュタット生まれ。ベルリンの壁建設2か月前に西独へ亡命、デュッセルドルフ美術アカデミーで学ぶ。1997年高松宮殿下記念世界文化賞、ヴェネチアビエンナーレ金獅子賞受賞。