ART
ビルで埋め尽くされた大竹伸朗展|青野尚子の今週末見るべきアート
July 24, 2019 | Art | casabrutus.com | photo_Takuya Neda text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
平面も立体もモチーフはすべてビル。水戸芸術館現代美術ギャラリーで開かれている大竹伸朗の個展は「ビルしばり」だ。館内を埋め尽くす「ビル」が表現するものとは?
本展のタイトル『ビル景』とは、ビルをモチーフにした作品のこと。展示された作品点数は600点以上。〈熊本市現代美術館〉からの巡回だが、水戸で新作6点を含む100点近くの作品が追加された。大きな四角形の中にたくさんの小さな四角形が描かれたものや、長方形がいくつか描かれたものなど、いかにもビルといった絵もあれば、一見何が描かれているのか判然としないものもある。でも並んでいるものはすべて、ビルを描いたものなのだという。
『ビル景』のもっとも初期の作品は、ロンドンのビルを描いた小さな鉛筆のドローイングだ。大竹は1977年に初めてロンドンに行き、スクラップブックもそこで始めた。78年に一度帰国した彼は79年から香港に通うようになる。日本ではあり得ない密度で高層ビルが密集する街だ。彼はそこでビルを意識するようになる。
「当時の香港は〈啓徳空港〉っていう、世界一着陸が難しいと言われていた空港から入るんだけれど、密集したビルの真上を飛行機が飛んでいく。それを上空から見るだけでもうトリップ状態だった(笑)。混沌の極致で、毎日が驚きの連続で。工事現場の足場は竹だし、洗濯物の干し方ひとつとっても日本とは違う」
「当時の香港は〈啓徳空港〉っていう、世界一着陸が難しいと言われていた空港から入るんだけれど、密集したビルの真上を飛行機が飛んでいく。それを上空から見るだけでもうトリップ状態だった(笑)。混沌の極致で、毎日が驚きの連続で。工事現場の足場は竹だし、洗濯物の干し方ひとつとっても日本とは違う」
会場に並ぶ作品の中にはタイトルにロンドン、香港、東京、ニューヨークなど、地名が入ったものも多い。制作年代も展覧会タイトルの通り1978年から2019年まで幅広い。コンセプトやテーマを決めてそれを追求していったわけではなく、いつの間にかビルの作品が続いていた、と彼は言う。
「僕はあまり『意味』とか好きじゃない。意味を知ってしまうことから想像力が削がれる気がする。モノを、初めて見るものとして見たい」
「僕はあまり『意味』とか好きじゃない。意味を知ってしまうことから想像力が削がれる気がする。モノを、初めて見るものとして見たい」
若い頃、自分には才能がないと思っていた、と意外なことも口にする。
「30才頃のことなんだけど、それまでアーティストというのはいろんな人のコピーとかを経てひとつのオリジナルなスタイルに行き着く、それが基本だと思っていた。僕もいつか、自分のスタイルに行き着くんだろうと思っていた。ところがいくらやっても自分の中から統一されたものが出てこない。昔からレコード作ったり絵を描いたり、立体も作る。矛盾したものが出てきてばらけちゃう、その繰り返し。でも違うスタイルに共通して出てくるのがビルのシリーズだった。60才を過ぎて気がついたんだけど、40年続いてることはスクラップブックと『ビル景』しかない。『続ける』ものではなくて『続いてっちゃう』ものはあらゆる理屈を超える」
「30才頃のことなんだけど、それまでアーティストというのはいろんな人のコピーとかを経てひとつのオリジナルなスタイルに行き着く、それが基本だと思っていた。僕もいつか、自分のスタイルに行き着くんだろうと思っていた。ところがいくらやっても自分の中から統一されたものが出てこない。昔からレコード作ったり絵を描いたり、立体も作る。矛盾したものが出てきてばらけちゃう、その繰り返し。でも違うスタイルに共通して出てくるのがビルのシリーズだった。60才を過ぎて気がついたんだけど、40年続いてることはスクラップブックと『ビル景』しかない。『続ける』ものではなくて『続いてっちゃう』ものはあらゆる理屈を超える」
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青野尚子
あおのなおこ ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に『新・美術空間散歩』(日東書院新社)、『背徳の西洋美術史』(池上英洋と共著、エムディエヌコーポレーション)、『美術でめぐる西洋史年表』(池上英洋と共著、新星出版社)。
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