
ARCHITECTURE
【東京・荻窪】伊東忠太が手がけた和洋折衷の邸宅建築と文化人ゆかりの名庭園へ|甲斐みのりの建築半日散歩
| Architecture, Culture, Travel | casabrutus.com | photo_Kaoru Yamada text_Minori Kai
善福寺川が流れ閑静な住宅街が広がる荻窪駅の南側一帯は、かつて政治家・学者・文豪などの文化人が好んで邸宅や別荘を築き、文化の息吹が残るところ。2024年12月には、伊東忠太の設計による近衞文麿の〈荻外荘(てきがいそう)〉が、約10年に渡る復原整備を終えて〈荻外荘公園〉として公開が始まった。音楽評論家・大田黒元雄の屋敷跡〈大田黒公園〉と、角川書店創業者・角川源義の旧邸宅〈角川庭園〉と合わせて、「荻窪三庭園」と呼ばれる3つの施設を巡った。
●10年の時を経て復原を果たした、昭和史に刻まれる〈荻外荘〉。
JR新宿駅から中央線で10分ほどの荻窪駅。大正時代から昭和初期にかけては「西の鎌倉、東の荻窪」として知られる別荘地で、畑や雑木林とのどかな武蔵野の風景が広がっていたという。関東大震災後、政治家や学者、井伏鱒二や与謝野晶子ら文士が邸宅や別荘を築き、農村地帯から住宅地へと変貌を遂げた。
そんな荻窪駅の南側は、私自身の散歩コースとして日頃から親しみのある場所。〈大田黒公園〉や〈角川庭園〉には日常的に足を運び、家族や友人たちを案内してきた。10年前に〈荻外荘〉の復原整備プロジェクトを知ってから長らく完成を待ち続けていたこともあり、2024年12月から始まった〈荻外荘〉の公開は建築ファンとして嬉しいニュースだった。同時に〈荻外荘〉は、戦争という昭和史の舞台であったことから、当時を知り平和への想いを抱くきっかけになることを切に願いたい。
そんな荻窪駅の南側は、私自身の散歩コースとして日頃から親しみのある場所。〈大田黒公園〉や〈角川庭園〉には日常的に足を運び、家族や友人たちを案内してきた。10年前に〈荻外荘〉の復原整備プロジェクトを知ってから長らく完成を待ち続けていたこともあり、2024年12月から始まった〈荻外荘〉の公開は建築ファンとして嬉しいニュースだった。同時に〈荻外荘〉は、戦争という昭和史の舞台であったことから、当時を知り平和への想いを抱くきっかけになることを切に願いたい。
〈荻外荘〉のはじまりは、大正天皇の待医頭(じいのかみ)や、渋沢栄一の主治医を務めた入澤達吉の別邸として1927(昭和2)年に建てられた「楓荻荘(ふうてきそう)」。設計したのは、築地本願寺で知られる建築家・伊東忠太。入澤と伊東は妻同士が姉妹であり、義兄弟という関係にあった。伊東は、義兄が余生を過ごす邸宅として、独創的な意匠を凝らした和洋折衷の邸宅を完成させた。
やがて入澤は、内閣総理大臣を3度務めた政治家・近衞文麿に、この邸宅を譲渡する。首相就任以降、心身ともに休養できる別邸を東京郊外に探していた近衞は、以前から親交があった入澤が住まう楓荻荘を訪れ、当時は遠くに富士山を望むことができた自然豊かな景観や、独自の様式がちりばめられた建築そのものに魅せられた。〈荻外荘〉という名は、近衞の後見人だった元老・西園寺公望が命名している。近衞は、1937(昭和12)年の第一次内閣期から、1945(昭和20)年に自室で自決するまで、増改築しながらここに居住した。その間、「荻窪会談」など多くの政治の舞台となったことから、国の史跡に指定されている。
一時期は、建物の東側部分が豊島区内に移築されるも再び荻窪へ戻され、近衞が暮らしていた当時の姿に復原された。建物は古い図面を参考に昭和初期の姿に戻し、残存する古材やガラスは可能な限り再利用している。家具や調度品はかつての写真や同時代の類例を元に、職人や専門家が製作をおこない、昭和初期の空間が色鮮やかに蘇った。ボランティアガイドによる丁寧な解説や、拡張現実(AR)・仮想現実(VR)の技術を用いた案内を通して、歴史や建築的な見所も知ることができる。別棟には杉並銘菓を味わうことができる喫茶室も。2025年7月には東隣に隈研吾建築都市設計事務所設計の展示棟が完成する予定で、今後も楽しみだ。
〈荻外荘〉
東京都杉並区荻窪2-43-36 TEL 03 6383 5711。9時〜17時(最終入園16時30分)。売店・喫茶室10時〜16時30分(L.O.16時)。水曜休(祝日の場合は開館)、年末年始休。一般300円。
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甲斐みのり
かい みのり 文筆家。旅、散歩、甘いもの、建築など幅広い題材について執筆。その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。
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