ARCHITECTURE
【長野・軽井沢】改修目前の〈軽井沢万平ホテル〉と吉村順三が手がけたアトリエへ|甲斐みのりの建築半日散歩
January 1, 2023 | Architecture, Culture, Design, Food, Travel | casabrutus.com | photo_Ryumon Kagioka text_Minori Kai
ジョン・レノンが愛したことで有名なホテル〈軽井沢万平ホテル〉が、創業130年に向けて約1年半の大規模改修・改築工事に入る。長い歴史を歩んできた姿をもう一度見に、軽井沢を訪れた。軽井沢には吉村順三が手がけたアトリエ山荘や初代「文化学院」を再現した美術館も。軽井沢はクラシックな建築が多い街だ。
●ジョン・レノンが愛した〈軽井沢万平ホテル〉。
1886(明治19)年、カナダ生まれの宣教師、アレクサンダー・クロフト・ショーが、清澄な環境に魅せられてひと夏を過ごしたことから、リゾート地としての歴史が始まった軽井沢。当初訪れていたのは外国人宣教師とその家族が大半だったが、次第に日本の有産階級層の間でも評判になり、避暑客も増えていった。
1894(明治27)年、中山道沿いにあった旅籠〈亀屋〉は、軽井沢初の外国人向けホテルとして再出発することに。きっかけは、亀屋に滞在したショーと、帝国大学の教授、ジェームズ・メイン・ディクソンを、宿の主人・佐藤万平が懸命にもてなしたこと。万平はこれからの軽井沢でホテルの重要性が高まると感じて、屋号を「亀屋ホテル」と改めた。その2年後、外国人が発音しやすいように「万平ホテル」に改名。娘婿とともに西洋文化や料理を学び、家庭的で温かなサービスに努めて客人を迎え入れた。
1894(明治27)年、中山道沿いにあった旅籠〈亀屋〉は、軽井沢初の外国人向けホテルとして再出発することに。きっかけは、亀屋に滞在したショーと、帝国大学の教授、ジェームズ・メイン・ディクソンを、宿の主人・佐藤万平が懸命にもてなしたこと。万平はこれからの軽井沢でホテルの重要性が高まると感じて、屋号を「亀屋ホテル」と改めた。その2年後、外国人が発音しやすいように「万平ホテル」に改名。娘婿とともに西洋文化や料理を学び、家庭的で温かなサービスに努めて客人を迎え入れた。
万平ホテルが現在の土地に移ってきたのは1902(明治35)年。当時の建物は現存せず、ホテルを象徴するスイスの山小屋を思わせる本館「アルプス館」は1936(昭和11)年の建築。佐久地方の養蚕農家をイメージした建物を設計したのは、〈日光金谷ホテル〉や〈河口湖富士ビューホテル〉も手がけた久米権九郎だ。
戦後の一時期は、米軍に接収され、将校専用の休養向けホテルだった時代もある。1952(昭和27)年に接収が解除されてからは再び賑わいが戻り、これまで以上に文人や財界人に愛されるように。とりわけ、ジョン・レノン家族との交流は有名な話。オノ・ヨーコさんの別荘が近くにあったことから一家でホテルを利用するようになり、ジョンはカフェテラスのアップルパイを気に入っていたという。現在、名物メニューとして知られるチャイのように濃厚なロイヤルミルクティーは、ホテルのバーテンダーがジョンから作り方を教えてもらったというのも、よく知られたエピソードである。
戦後の一時期は、米軍に接収され、将校専用の休養向けホテルだった時代もある。1952(昭和27)年に接収が解除されてからは再び賑わいが戻り、これまで以上に文人や財界人に愛されるように。とりわけ、ジョン・レノン家族との交流は有名な話。オノ・ヨーコさんの別荘が近くにあったことから一家でホテルを利用するようになり、ジョンはカフェテラスのアップルパイを気に入っていたという。現在、名物メニューとして知られるチャイのように濃厚なロイヤルミルクティーは、ホテルのバーテンダーがジョンから作り方を教えてもらったというのも、よく知られたエピソードである。
他にも、ウィリアム・メレル・ヴォーリズがクラブハウスの設計をおこなった〈軽井沢会テニスコート〉で出会った上皇陛下と上皇后陛下が、休憩をホテルで過ごすなど、さまざまな物語が山のよう。三島由紀夫『美徳のよろめき』や堀辰雄『風立ちぬ』など、数々の小説やエッセイの舞台としても登場する。
個人的には、20代後半で日本のクラシックホテル巡りを初めてから、たびたび訪れている思い出のホテル。滞在中は部屋やロビーで室生犀星や立原道造など、軽井沢が舞台の本を読んだり、手紙を書いて過ごしていた。
創業130周年に向けた大規模改修・改築工事のために2023年1月3日の夕方以降は約1年半の間休業となる。木造三階建で切妻造妻入の大屋根を左右に並べた軽井沢万平ホテルの本館である「アルプス館」は、国の登録有形文化財に指定されており、外観はそのままの形を保ちつつ、経年劣化の補強、新規客室化や新施設の追加も予定しているという。
2024年夏のリニューアルオープン時には、新たな記憶を刻むために、またホテルに滞在するのを心待ちにしている。
創業130周年に向けた大規模改修・改築工事のために2023年1月3日の夕方以降は約1年半の間休業となる。木造三階建で切妻造妻入の大屋根を左右に並べた軽井沢万平ホテルの本館である「アルプス館」は、国の登録有形文化財に指定されており、外観はそのままの形を保ちつつ、経年劣化の補強、新規客室化や新施設の追加も予定しているという。
2024年夏のリニューアルオープン時には、新たな記憶を刻むために、またホテルに滞在するのを心待ちにしている。
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illustration Yoshifumi Takeda
甲斐みのり
かい みのり 文筆家。旅、散歩、甘いもの、建築など幅広い題材について執筆。その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。
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