奇想が奇想を呼ぶ、絵師たちの想像力に驚く。|青野尚子の今週末見るべきアート | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

奇想が奇想を呼ぶ、絵師たちの想像力に驚く。|青野尚子の今週末見るべきアート

伊藤若冲、長沢芦雪ら「奇想のスーパースター」8人を取りそろえた豪華な展覧会が開催中! それぞれの個性が楽しめます。

伊藤若冲《紫陽花双鶏図》。若冲が家督を弟に譲ったその年に描かれたと思われる絵。若々しいが若冲らしさもにじみ出る。 絹本着色 一幅 139.4×85.1cm 米国・エツコ&ジョー・プライスコレクション
伊藤若冲を始めとする「奇想」ブームもすっかり定着した感がある。そのルーツは美術史家で、この展覧会の監修者である辻惟雄が1970年に著した『奇想の系譜』だ。その後、2000年と2016年に大規模な若冲展が開かれ、その他の絵師たちもそれぞれ作品が展示されて人気に拍車をかけている。

本展に登場するのは『奇想の系譜』に取り上げられた岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳に白隠慧鶴と鈴木其一を加えた8人の絵師たちだ。以前に出陳された作品ばかりでなく、新しく発見されたものや長年行方不明になっていたのが見つかったもの、国外の所蔵品が初めて里帰りするものなど、貴重な作品も。8人が一堂に会することで、各絵師の個性や共通点を楽しめるのがこの展覧会の見どころだ。
伊藤若冲《象と鯨図屛風》(左隻)。うずくまる白象(右隻)、潮を吹く鯨(左隻)を描く。紙本墨画 六曲一双  159.4×354.0cm 寛政9年(1797) 滋賀・MIHO MUSEUM
伊藤若冲《象と鯨図屏風》(右隻)。陸と海でもっとも大きな動物の対決のような屛風。紙本墨画 六曲一双 159.4×354.0cm 寛政9年(1797) 滋賀・MIHO MUSEUM
伊藤若冲《象と鯨図屛風》(左隻)。うずくまる白象(右隻)、潮を吹く鯨(左隻)を描く。紙本墨画 六曲一双  159.4×354.0cm 寛政9年(1797) 滋賀・MIHO MUSEUM
伊藤若冲《象と鯨図屏風》(右隻)。陸と海でもっとも大きな動物の対決のような屛風。紙本墨画 六曲一双 159.4×354.0cm 寛政9年(1797) 滋賀・MIHO MUSEUM
展示の冒頭は伊藤若冲だ。初公開の《梔子雄鶏図》は展覧会の準備中に再発見された作品。若冲が本格的に画業に取り組んだ30歳代のころのものと思われる。この頃の作品は他にあまり残っておらず、その意味でも貴重だ。

若冲が繰り返し「鶏」を描いているのは有名だ。彼は「自分は、真のものでなければ図さない」といった意味の文を書いている。当時は先人の優れた絵を手本にそれを模写することが広く行われていた。若冲はそれに飽き足らず、実物を見て描かなくては、と考えたのだ。そこで彼は身近な鶏を飼い、観察を重ねたという。若冲は鶏の羽や形、虫をついばんだり歩き回ったりといった姿態のバリエーションに惹かれたのだろう。新発見された水墨画の《鶏図押絵貼屏風》と着彩画の《梔子雄鶏図》や《紫陽花双鶏図》との比較も面白い。
伊藤若冲《梔子雄鶏図》。若冲の最初期の作品と思われるもの。梔子と鶏の組み合わせも珍しい。絹本着色 一幅 85.8×43.1cm 個人蔵
次に現れるのは人物の表情も色もどぎつい曽我蕭白。《雪山童子図》の鬼などは、いくら鬼でもここまで毒々しい色で描かなくてもいいのに、と思ってしまう。しかもこの鬼は釈迦の前世の姿である雪山童子の修行の熱意を試すために、悪鬼の姿で現れた帝釈天なのだ。雪山童子の方も真っ赤な衣に真っ赤な唇が強烈な印象を与える。《群仙図屏風》(展示期間:3月12日〜4月7日)は辻が『奇想の系譜』を書くきっかけのひとつになった作品。水墨画の一部が着彩された、パートカラーのような屏風だ。こちらも赤、青、黄とこの世のものとは思えないけばけばしさ。獣の顔がついた水盤や妖気を現すかのような渦巻きなど、見れば見るほど奇妙だ。キモカワイイとも言えない、ただただ不気味な絵なのだが、つい見入ってしまう妙な吸引力がある。
曽我蕭白《雪山童子図》。右上の雪山童子(釈迦の前世の姿)が鬼に化けた帝釈天と対峙する場面。紙本着色 一幅 169.8×124.8cm 明和元年(1764)頃 三重・継松寺
その蕭白は「画を望まば我に乞うべし、絵図を求めんとならば円山主水よかるべし」と言ったという。写生を重んじる円山応挙の絵はただ現実を引き写しているだけで、そんな内容のないものは絵ではない、というのだ。長沢芦雪はその応挙の弟子であり、応挙の代役を務めるほどの絵師だったのだが、『奇想の系譜』には蕭白と並んで収録されている。

彼の《白象黒牛図屏風》は右隻に白い象とその背中にとまる二羽のカラスが、左隻には黒い牛と足下にちょこんと座る白い仔犬が描かれる。大と小、黒と白の対比という遊び心ある一品だ。愛らしい仔犬の描写は師匠の円山応挙ゆずり。後ろ脚を投げ出して座る姿が何ともいえない。