山下めぐみのロンドン通信|地球温暖化への警告:オラファー・エリアソンの〈アイス・ウィッチ〉がロンドンで溶解中! | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

山下めぐみのロンドン通信|地球温暖化への警告:オラファー・エリアソンの〈アイス・ウィッチ〉がロンドンで溶解中!

ロンドンの〈テートモダン〉に24コ、そして金融街の真ん中〈ブルームバーグ〉の本社前に6コ。グリーンランドから届いた氷塊、その心はいかに?

かつては火力発電所だった〈テートモダン〉の前に登場した24の氷塊。気候変動の岐路に立つなか、ラディカルな軌道修正を訴える。
〈テートモダン〉のテムズ川に面した広場に設置された大小24の氷塊。
今年の建築各賞を受賞したフォスター&パートナーズ設計の〈ブルームバーグ〉ヨーロッパ本社前には、6つの氷塊が。
かつては火力発電所だった〈テートモダン〉の前に登場した24の氷塊。気候変動の岐路に立つなか、ラディカルな軌道修正を訴える。
〈テートモダン〉のテムズ川に面した広場に設置された大小24の氷塊。
今年の建築各賞を受賞したフォスター&パートナーズ設計の〈ブルームバーグ〉ヨーロッパ本社前には、6つの氷塊が。
これは決して、商業的なクリスマスのディスプレイではない。ポーランドのカトヴィツェで開催中の国連の気候変動会議「COP24」に合わせ、アーティストのオラファー・エリアソンと地質学者のミニック・ロージング博士がコラボレーションしたアート作品、そして気候変動を訴える具体的な物証でもある〈アイス・ウィッチ〉というインスタレーションだ。

氷塊は氷床が急速に溶け出している温暖化の最前線、グリーンランドのフィヨルドから採集され、ロンドンまで冷凍車を使って運ばれてきたもの。大きいものは1.5トンぐらいある。運搬に要したカーボンフットプリントも、この作品の効果を思えば小さいものと言っていいだろう。

他の地域に比べ、2倍の速度で気温が上昇しているという北極圏にあるグリーンランド。デンマーク自治領になるこの世界最大の島は、その80パーセントが雪と氷に覆われている。デンマークとアイスランドで育ったエリアソンとグリーンランド生まれのロージング博士にとって、その環境の変化は生で感じる現実なのだ。
〈アイス・ウィッチ〉は、コペンハーゲン(2014)とパリ(2015)に次いで、今回が3回目となる。その間、トランプ政権のパリ協定離脱表明など、温暖化への取り組みが進むどころか、後退しているとも言える状況だろう。開催中の気候変動会議「COP24」でも、アメリカとサウジアラビアが採択を妨害したことがニュースになっている。

一方でさまざまな研究データから、12年以内にラディカルな気候変動対策を講じないと手遅れになるとの警告が発せられている。「データや警告などでは、なかなか人の行動は変わりません。実際に目に見えて、触って感じ、心で読み取ってもらうことで、メッセージが伝わると思っています」とエリアソンは〈アイス・ウィッチ〉の意図を語る。

「これは水が凍ったものというより、長年掛けて雪が固まったものであり、その時の空気も含んでいます。1万年前、10万年前の空気も入っているわけですが、その二酸化炭素量は今の半分近くです。氷塊に耳を付ければ、古代の空気が弾ける音がしますよ」とコラボレーターのロージング博士。 東北大学と共同で、グリーンランドの岩石から世界最古の生命の痕跡とされる38億年前の 微生物を発見したことでも知られる人物だ。
〈アイス・ウィッチ〉は、アーティストのオラファー・エリアソン(左)と地質学者のミニック・ロージング博士のコラボレーションになる。
自然が作り出す美しい彫刻。そこには何万年も前の空気も含まれている。
透明な部分は空気がないところ。耳をつけると、空気が弾ける音がする。
〈アイス・ウィッチ〉は、アーティストのオラファー・エリアソン(左)と地質学者のミニック・ロージング博士のコラボレーションになる。
自然が作り出す美しい彫刻。そこには何万年も前の空気も含まれている。
透明な部分は空気がないところ。耳をつけると、空気が弾ける音がする。
24の氷塊が設置されたのは、〈テートモダン〉外のテムズ川に面した広場。こちらのタービンホールに巨大な太陽と霧を出現させた2003年の「ウェザー・プロジェクト」によって、エリアソンは世界的なアーティストへと飛躍した。「天候」は彼にとって永遠のテーマであり、作品を通して環境保護やサステナビリティへの気付きを促してきた。2019年7月にはこちらで個展も予定されている。

今回のプロジェクトをサポートしているのは〈ブルームバーグ〉の慈善事業部〈ブルームバーグ・フィランソロピーズ〉になる。金融街の真ん中にある 〈ブルームバーグ〉本社前にも、6つの氷塊が設置になった。〈ブルームバーグ〉CEOで、気候変動の国連特使も務めるマイケル・ブルームバーグは言う。

「行政もビジネスもコミュニティもより思い切った気候変動への対策を講じるよう気付きを促したい。もちろんトランプ大統領にもね」

〈ブルームバーグ・フィランソロピーズ〉は、アメリカのパリ協定離脱によって国連気候変動事務局が失う 約1,500万ドルを補填することも表明している。
オラファー・エリアソンとマイケル・ブルームバーグ。首にかけた〈Little Sun〉は、〈ブルームバーグ・フィランソロピーズ〉の援助で途上国などに配布しているソーラー充電式ポータブル照明。小さいことから大きな変化を!
プロジェクトを説明し、メッセージの拡散を訴えるオラファー・エリアソン。
オラファー・エリアソンとマイケル・ブルームバーグ。首にかけた〈Little Sun〉は、〈ブルームバーグ・フィランソロピーズ〉の援助で途上国などに配布しているソーラー充電式ポータブル照明。小さいことから大きな変化を!
プロジェクトを説明し、メッセージの拡散を訴えるオラファー・エリアソン。
氷は大きいものなら 10日ぐらいは保つとの予想だが、それも気温次第。氷塊に自由に触れて耳を傾けて、メッセージを感じてほしいという。驚くべきことに、このぐらいの大きさの氷塊が、現在、毎秒1万個の速度で、氷床から海に溶け落ちているとのこと。地球環境はまさしく待ったなしの危機的状況に立たされている。

「まずはこうした現実を具体的に知ってください。気候変動は避けられないことですが、悪化を防ぐことはまだできます。地球には温暖化ガスを発さずに得られる充分なエネルギーが必ずあるのですから」ロージング博士は明るい未来を思い描くように促す。

観測史上稀な暑い夏に続き、記憶にないほどの暖冬だったロンドンだが、このインスタレーションの登場後、冬らしい寒さがやってきた。12月21日にまだ氷が残っていた場合は、それを地域の学校などに持ち込み、気候変動の講義に使うとのこと。いつまで解けずに残っているか、気になるところだ。

『Ice Watch』

〈Tate Modern〉
Bankside London SE1 9TG。館外に展示中。12月21日、または解けるまで。

『Ice Watch』

〈Bloomberg〉
3 Queen Victoria, London EC4A 4TQ。館外に展示中。12月21日、または解けるまで。

山下めぐみ

やましためぐみ  ロンドンに暮らしてはや25年。『カーサ ブルータス』などに建築&デザイン関係の記事を寄稿する。これまでインタビューした建築家らに一筆願ったサイン帳が自慢。死ぬまでに見たい建築(通称シヌケン)など、ケンチクを巡るタビを企画提案するArchitabi主宰。