ぽやぽやの毛並みがかわいい! 等伯のお猿さん。|ニッポンのお宝、お蔵出し | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

ぽやぽやの毛並みがかわいい! 等伯のお猿さん。|ニッポンのお宝、お蔵出し

季節に応じて床の間の軸を替えるように絵や彫刻を愛でる。今回は長谷川等伯《竹林猿猴図屏風》です。

《竹林猿猴図屏風》長谷川等伯(右隻部分)、六曲一双、桃山時代、相国寺蔵。子ザルをしっかりと支える母ザル。中心にぎゅっと寄った目鼻が愛らしさを強調する。
日本美術、特に絵画は傷みやすいため、西洋美術と違って限られた期間にしか公開されません。ルーヴル美術館の《モナ・リザ》のようにいつもそこにあるわけではないので、展示されるチャンスを逃さないようにしたいもの。本連載では、今見るべき日本美術の至宝をご紹介!

今回のお宝:長谷川等伯《竹林猿猴図屏風》
お宝ポイント:小さな子供を慈しむ、テナガザル一家の幸せな様子。
公開期間:公開中〜6月24日
公開場所:京都〈相国寺承天閣美術館〉

重要文化財《竹林猿猴図屏風》長谷川等伯(右隻・相国寺蔵)。牧谿の技法を体得した等伯の一つの頂点を示す。
重要文化財《竹林猿猴図屏風》長谷川等伯(左隻・相国寺蔵)。
重要文化財《竹林猿猴図屏風》長谷川等伯(右隻・相国寺蔵)。牧谿の技法を体得した等伯の一つの頂点を示す。
重要文化財《竹林猿猴図屏風》長谷川等伯(左隻・相国寺蔵)。
まん丸い顔の真ん中にちんまりと描かれた目と口。いかにも柔らかそうなぽやぽやの毛並み。子ザルを肩車のように乗せる母ザルと、それを見つめる父ザルの優しい視線も何ともいえない。長谷川等伯の《竹林猿猴図屏風》は小さな子供を慈しむ親の愛情が感じられて、幸せな気分にしてくれる。彼が故郷の石川県・七尾から京に上り、狩野永徳らと競って大仕事を受注しようとしていた、脂ののりきった時期の作品だ。

3匹の猿は日本でよく温泉に入っていたりするニホンザルではなく、東南アジアに分布するテナガザルだ。当時、日本にはいなかったテナガザルを等伯は中国の画家、牧谿(もっけい)に倣って描いた。その頃の日本の絵師にとって中国絵画は追いつくべき目標であり、中でも牧谿はとくにリスペクトされていた。等伯は牧谿が描いた大徳寺所蔵の《観音猿猴図》という絵を参照したと思われる。その絵には松の木の上で母にしがみつく子のテナガザルの姿が描かれていた。

等伯はこの絵の他にも木に同じく親子のテナガザルが上る《古木猿猴図》を描いている。2015年には新たに《猿猴図屏風》が発見され、話題になった。こちらにもテナガザルが描かれているが、毛並みが極細の針金のようなテクスチャーで描かれているのが面白い。
長谷川等伯《竹林猿猴図屏風》(右隻部分)。子ザルが笑っているように見えるなど、表情も豊か。
牧谿に倣った丸顔のテナガザルは人気のモチーフだったようで、狩野派の絵師たちも描いている。人間にもっともよく似た動物であるサルはまた、ニホンザルもあわせてさまざまな教訓を込めて表現された。「見ざる、言わざる、聞かざる」の三猿のほか、中国絵画や桃山・江戸期の絵画ではサルが水面に映る月に手を伸ばしているものがある。これは水に映る月を取ろうとして溺れてしまう「猿猴月を取る」という逸話に基づくもの。分不相応なことを試みて身を滅ぼす愚かさを戒める。

が、等伯の《竹林猿猴図屏風》にはそういった教訓めいた側面はあまり感じられない。それよりも人間くさい、純粋な親子の情愛に満ちている。子ザルと母ザルは互いに首をかしげておしゃべりしているようだ。母は子の手をつかんでいて、「いたずらしちゃダメよ」と言っているようにも見える。
長谷川等伯《竹林猿猴図屏風》(右隻部分)。父ザルの長い手の先に注目。枝を移動するために逆手で持っている。
等伯はさらに牧谿の絵にはなかった父ザルを描き加えた。父は母子に向かって枝を渡っていくところだ。リラックスしてくつろぐ、一家団欒的な場景が浮かぶ。金泥と淡墨は空気の湿り気や柔らかい光を表現する。さまざまな筆法で表現された自然の中で遊ぶ親子ザルの平和な姿が現代の私たちにも感情移入を誘う。等伯自身の家族愛も投影されているような温かい絵だ。
長谷川等伯《竹林猿猴図屏風》(左隻部分)。湿った空気に煙る竹の葉の描写も素晴らしい。この湿った空気感は後に彼の最高傑作《松林図屏風》となって結実する。

春燦燦-清婉峭雅の系譜

〈相国寺承天閣美術館〉

京都市上京区今出川通烏丸東入
。〜6月24日。10時〜17時。会期中無休。一般800円。