京都の老舗温泉旅館に、現代美術作家・柳幸典のアートに包まれるギャラリーが誕生! | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

京都の老舗温泉旅館に、現代美術作家・柳幸典のアートに包まれるギャラリーが誕生!

京都の奥座敷にたたずむ温泉旅館のロビーがアートギャラリーに! アーティスト・柳幸典が、地元の伝統工芸の職人や建築家とコラボレーションして作り出した空間です。温泉や食事もより深く味わえます。

〈すみや亀峰菴〉エントランス。奥に柳幸典の作品がかけられている。その背後の黒い壁は左官職人の久住章、左のフロントカウンターの白い壁は和紙職人のハタノワタルによるもの。 photo_Hayato Wakabayashi
〈すみや亀峰菴〉のロビーギャラリー〈百代 Hakutai〉。左の壁がギャラリースペース。柳幸典の作品がかけられている。
〈すみや亀峰菴〉のロビーギャラリー〈百代 Hakutai〉に展示された自作の前の柳幸典。
京都市内から車で1時間ほどのところにある湯の花温泉は、奥座敷といった風情の静かな温泉地。戦国時代に武士が傷を癒やしたなどの言い伝えがあり、周囲には〈神蔵寺〉など古い歴史を持つ寺社仏閣が点在する。その湯の花温泉にある〈すみや亀峰菴〉は、1955年創業の老舗旅館。丹波牛や四季折々の野菜がおいしい和食とほどよい酸味が和食に合うオーストリアワイン、たっぷりの温泉が堪能できる。そんな伝統の旅館に、先端の現代美術が出迎えるギャラリーが誕生した。現代美術作家の柳幸典が手がけたロビー兼アートギャラリー〈百代 Hakutai〉だ。
〈百代 Hakutai〉で柳が設えた“5つの箱”のうちの2つ。右の斜めになった箱には近くの丹波を拠点とする陶芸家、石井直人の作品が置かれている。
柳幸典は1993年、日本人で初めてヴェネチア・ビエンナーレ国際芸術展で登竜門ともいえるアペルト部門に選ばれたアーティスト。瀬戸内海の犬島では明治時代の銅の製錬所遺構を再生した美術館〈犬島精錬所美術館〉をディレクションし、三島由紀夫にインスピレーションを得た恒久作品を設置している。

「百代」という名前は唐代の詩人、李白の『春夜宴桃李園序』の「夫れ天地は万物の逆旅にして、光陰は百代の過客なり。」からとられている。「天地は万物を迎え入れる旅籠のようなもの、月日は永遠の旅人のようなものである」と訳されるこの一文は旅館の顔となるギャラリーにふさわしい。
葛飾北斎《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》をモチーフにした柳幸典の作品《Study for Japanse Art -Hokusai-》。  photo_Hayato Wakabayashi
《Study for Japanse Art -Hokusai-》作品の部分。アリが巣を作って崩している。
エントランスの鉄の扉が開くと、正面に世界一有名な絵画とも言われる葛飾北斎の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》が掛けられている──と思ったら、実物よりも拡大されていて、8つのパネルに分割されている。よく見ると絵には虫食いの跡のような穴が見える。実はこの作品《Study for Japanse Art -Hokusai-》は着色された砂でできていて、穴はそこに放たれたアリが作ったものだ。アリはそこに巣を作ろうとせっせと砂を運び出し、自分たちのためのトンネルを掘るから、絵は少しずつ崩れていく。柳は同じ手法で以前、各国の国旗をアリが崩していくという作品も制作、「アント・ファーム」シリーズと呼んでいる。
〈百代 Hakutai〉ではアリが“制作”に励む様子を収めた動画を見ることもできる。
アリは本能に従って巣を作っているだけで、芸術を破壊しているかどうかは頓着していない。
この《神奈川沖浪裏》は前出の李白の一文に続く「人生ははかない夢のよう、楽しみも長くは続かない」というフレーズからインスピレーションを得て選ばれた。

「《神奈川沖浪裏》には大波に翻弄される小舟にしがみつく人々が描かれています。私たちの人生も大波にさらされた小舟のようなもの。人生を旅にたとえ、天地のスケールに比べるとなんと小さなものだろう、とむなしさを詠う李白の詩に通じると思いました」
と柳は言う。

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