ART
田中一村の知られざる千葉時代を追う|青野尚子の今週末見るべきアート
January 28, 2021 | Art, Design | casabrutus.com | photo_Takuya Neda text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano © 2021 Hiroshi Niiyama
奄美の風景を濃厚かつ繊細なタッチで描いた田中一村。奄美に出立する前に彼は、千葉で過ごしていました。奄美以前、さまざまな技法や表現にチャレンジしていた一村の軌跡をゆかりの地〈千葉市美術館〉でたどります。
田中一村は1908年、彫刻家の父のもと、今の栃木市に生まれた。7歳で児童画展に入選するなど早くから画才を現し、「神童」と呼ばれる。18歳で今の東京藝術大学に入学するが、なぜか6月には退学してしまう。このときの同期には東山魁夷らがいた。30歳のとき、〈千葉市美術館〉からもほど近い千葉寺町に移住、50歳で奄美行きのため家を処分するまで千葉で暮らしている。その後は一時的に千葉に戻ることもあったが、69歳で没するまで奄美で過ごした。
千葉で一村は、親戚であり最大の理解者であった川村幾三の支援を受ける。この展覧会は主に川村家やその友人など一村に縁のあった人々から寄贈・寄託された作品で構成されている。〈千葉市美術館〉収蔵品のすべてをこの展覧会で見ることができる、レアな機会だ。
展覧会は10代の頃の作品から始まる。この頃、彼は中国の文人画(文人が余技として描いた絵。転じてそのような様式の絵も指す)に倣ったものを多く描いていた。その後、写生を軸にしたり、与謝蕪村ふうの絵に漢詩を重ねたり、日本画の顔料を洋画のように全面に厚塗りするなど、伝統に学びながら多様な作風に挑戦している。琳派の影響が見られるものもある。いずれにしても奄美時代の作品とは異なる画風のものが多い。
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illustration Yoshifumi Takeda
青野尚子
あおのなおこ ライター。アート、建築関係を中心に活動。共著に『新・美術空間散歩』(日東書院新社)、『背徳の西洋美術史』(池上英洋と共著、エムディエヌコーポレーション)、『美術でめぐる西洋史年表』(池上英洋と共著、新星出版社)。
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