阿寒湖アイヌ×デジタルアート。〈WOW〉がカムイの世界を描き出す。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

阿寒湖アイヌ×デジタルアート。〈WOW〉がカムイの世界を描き出す。

〈WOW〉が手がけるデジタルアートによって、目に見えない「カムイ=神」の世界観まで描かれた、新たな時代のアイヌ古典舞踊・阿寒ユーカラ『ロストカムイ』。デジタル、古典、両者のアートとしての可能性をさらに拓く表現だ。

アフリカをはじめ世界の少数民族や先住民を撮影する写真家・ヨシダナギによるキービジュアル。阿寒湖アイヌをモデルに、真冬のマイナス25度の極寒の早朝、結氷する湖の上で撮影を行った。photo_nagi yoshida
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アフリカをはじめ世界の少数民族や先住民を撮影する写真家・ヨシダナギによるキービジュアル。阿寒湖アイヌをモデルに、真冬のマイナス25度の極寒の早朝、結氷する湖の上で撮影を行った。photo_nagi yoshida
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2012年に北海道・阿寒湖に誕生した、阿寒湖アイヌシアター〈イコロ〉。これまで「アイヌ古式舞踊」「コタンの人々が演じる人形劇」「イオマンテの火まつり」などの伝統芸能を中心に上演してきたが、今年3月にスタートした演目「阿寒ユーカラ『ロストカムイ』」では、ヨシダナギや〈WOW〉など屈指のクリエイターたちが共演。“デジタルアート×アイヌ古典舞踊”という新たな表現が話題を呼び、動員人数は1万人を超えている。

テーマとなるのは、アイヌの間で「狩りをする神=ホロケウカムイ」として畏怖の対象となってきた、エゾオオカミ。明治期に絶滅してしまったこの特別なカムイが駆けていたかつてのアイヌの森を、舞踊、映像、サウンドによって、幻想的に立ち上げていく。
企画・原作・クリエイティブディレクションは、坂本大輔(JTBコミュニケーションデザイン)。振り付けはダンサーのUNOが務めた。演目の前半では「カムイ=神」の世界を描く現代舞踊を、後半ではアイヌ古典舞踊を、ともに映像・サウンドによる幻想的な世界観のもと表現する。
床や壁のみならず、間に設けられた透過幕にも映像が投影されることで、動物たちの影などに不思議な“実在感”が生じる。
企画・原作・クリエイティブディレクションは、坂本大輔(JTBコミュニケーションデザイン)。振り付けはダンサーのUNOが務めた。演目の前半では「カムイ=神」の世界を描く現代舞踊を、後半ではアイヌ古典舞踊を、ともに映像・サウンドによる幻想的な世界観のもと表現する。
床や壁のみならず、間に設けられた透過幕にも映像が投影されることで、動物たちの影などに不思議な“実在感”が生じる。
現代のアイヌにとっても、エゾオオカミはもはや直接目にしたことがない“伝説”のような存在。しかし、さまざまなユーカラ(=叙事詩)が世代を超えて口承されてきたなかで、「キラキラとしたオーラを纏ったようなイメージ」は、今なおアイヌたちの間で息づいている。今回の演目で映像やサウンドの最新技術が担うのは、そうしたイメージに、具現化されたひとつの姿を与える役。長く伝わってきたアイヌの豊かな文化に対して、新たな角度から光が当たるような舞台を整えることだ。

半円状の床、舞台奥側の3面の白壁、そして、舞台の前後を仕切るようにかけられた透過幕に投影される、5台のプロジェクターを用いた映像。また、7.1chマルチスピーカーによる、前後左右から響くように聴こえる立体的なサウンド。

ビジュアルデザインスタジオ〈WOW〉とサウンドデザイナーのKuniyuki Takahashiによるこれらの演出によって、アイヌか倭人かに関わりなく、また子どもでも、外国人でも、カムイの世界観へとアクセスできるようになる。色彩と陰影に富み、またオオカミ、シカ、クマ、鳥などの生き物たちの豊かな息遣いに溢れたアイヌの森を、五感を通して体験する機会が生まれる。
後半は舞台の中央に実際の焚き火が現れ、古式に則ったアイヌ舞踊に。前半でカムイの世界観を体感することで、新鮮な視点で踊り手たちの所作を見ることができる。
観客も踊りに加わるクライマックス。「『ロストカムイ』は、“ともに踊りましょう”という共生のための演目。この阿寒ではぜひ、アイヌの“さわり”だけ、“楽しい”だけを持って帰って欲しい」(床 州生)。
後半は舞台の中央に実際の焚き火が現れ、古式に則ったアイヌ舞踊に。前半でカムイの世界観を体感することで、新鮮な視点で踊り手たちの所作を見ることができる。
観客も踊りに加わるクライマックス。「『ロストカムイ』は、“ともに踊りましょう”という共生のための演目。この阿寒ではぜひ、アイヌの“さわり”だけ、“楽しい”だけを持って帰って欲しい」(床 州生)。
そもそも阿寒は、もともと特定のコタン(集落)があったのではなく、周辺のアイヌたちにとって“夏の狩場”だった土地。現在でも阿寒の自然を維持・管理している「前田一歩財団」の3代目園主・前田光子が、 無償で住宅用地を提供したことで札幌、旭川、帯広、釧路などからアイヌたちが移り住み、様々な土地のアイヌ文化がハイブリッドして生まれた、いわば“新たなアイヌコタン”だ。だからこそ、伝統を継承することの熱意と、一方でデジタルアートといった新たな表現への意欲が同居する。阿寒アイヌ工芸組合理事で、阿寒湖アイヌシアター「イコロ」の舞台監督の床 州生(とこ・しゅうせい)は語る。

「古式舞踊があったうえで初めて、こうした新たな表現ができる。それは、大前提です。デジタル技術のような目新しい手法に顔をしかめるアイヌだっているかもしれません。ただ、現代の私たちにとって、技術はもはや“ふつうにあるもの”ですよね。それを活用することは、アイヌがこれまで、時代ごとに様々な楽しみを見出しながら生きてきたのと、同じことだと思うのです。ユーカラの中には、光る剣が出てきたり、泥の船で宇宙に行ったり、いろんな神が揃い踏むまるで“アベンジャーズ”のような奇想天外な世界観のものもある。今回はホロケウカムイをテーマにしましたが、英雄伝説や恋愛モノなど、『阿寒ユーカラ〜』という枠組みを使って、より多様なアイヌの世界を伝えられると思っています」(床)