カオスな現代社会を表した柚木沙弥郎の鳥獣戯画。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

カオスな現代社会を表した柚木沙弥郎の鳥獣戯画。

『カーサ ブルータス』2019年8月号より

96歳の染色家、柚木沙弥郎の新作は"鳥獣戯画"! 愉快で痛快な大作に、作者が込めた想いとは?

©大崎えりや
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エイヤッと投げ飛ばされてひっくり返った兎と、それを見て喜ぶ蛙たち。傍らでは猿の僧侶が大マジメな顔で読経中……。12世紀の絵仏師・鳥羽僧正の筆と伝わる「鳥獣戯画」は、擬人化された動物による破天荒なエンターテインメントだ。なんとこの名作をモチーフに、96歳の染色家・柚木沙弥郎が新作を発表。〈神奈川県立近代美術館〉で公開中だ。

「鳥獣戯画の魅力は、動物が全然かわいらしくないところかなあ」

と笑う柚木は、民藝の染織家・芹沢銈介に師事し、型染めから絵本やグラフィックデザインまで手がけるアーティスト。鮮やかな色使いでも知られているが、「鳥獣戯画は墨一色の線だけで表現されている“白描画”。僕も色はいらないと感じて墨だけにした。実はこういう筆描きの絵も初めて。人生最初で最後のいたずら描きだと思い、一気呵成に描きました」
蓮の葉をかぶった狐は誘惑上手な高等遊女 数本の平筆を使い分け、さまざまな墨の線で表現。「狐は白拍子と呼ばれる高等遊女。猿は誘惑され、蛙はそれをうらやましげに見てる」と柚木。©大崎えりや
突然現れる蛇が現代社会のカオスを表現 「社会を混乱させる蛇は”後に付いてっちゃダメ”な存在。この後に出てくる梟の琵琶法師がこの世の諸行無常を告げて、物語は終わります」©大崎えりや
蛙が兎を投げ飛ばす鳥獣戯画の人気シーン 原画の動物を模しながら、独自にキャラ付けもした柚木の鳥獣戯画。遊び人の貴族に見立てた兎と、富裕市民に見立てた蛙が相撲をとる場面。©大崎えりや
ユーモラスな表情やポーズもみどころです 蛙の葬式を行うのは猿僧侶。「僧侶は権力者だから猫も兎も貢物を持ってくる。でもこの後、蛙が生き返ってみんな仰天しちゃうんだ」と柚木。©大崎えりや
蓮の葉をかぶった狐は誘惑上手な高等遊女 数本の平筆を使い分け、さまざまな墨の線で表現。「狐は白拍子と呼ばれる高等遊女。猿は誘惑され、蛙はそれをうらやましげに見てる」と柚木。©大崎えりや
突然現れる蛇が現代社会のカオスを表現 「社会を混乱させる蛇は”後に付いてっちゃダメ”な存在。この後に出てくる梟の琵琶法師がこの世の諸行無常を告げて、物語は終わります」©大崎えりや
蛙が兎を投げ飛ばす鳥獣戯画の人気シーン 原画の動物を模しながら、独自にキャラ付けもした柚木の鳥獣戯画。遊び人の貴族に見立てた兎と、富裕市民に見立てた蛙が相撲をとる場面。©大崎えりや
ユーモラスな表情やポーズもみどころです 蛙の葬式を行うのは猿僧侶。「僧侶は権力者だから猫も兎も貢物を持ってくる。でもこの後、蛙が生き返ってみんな仰天しちゃうんだ」と柚木。©大崎えりや
長さ12Mにわたる画面には、兎と蛙が相撲をとるおなじみの場面もあれば、遊女を連れた猿を蛙が物欲しげに眺める……といったオリジナルシーンも現れる。

「原画のキャラクターや場面から好きな絵柄を選んで繋げ、ひと続きの物語のように再構成してみた」という柚木だが、実はこの物語、ある舞台芸術がベースになっている。それは、柚木と親交の深い〈ギャラリーTOM〉を創設した故・村山亜土が、かつて鳥獣戯画を題材につくった舞踊劇。

「鳥獣戯画が描かれたのは、世界が終わるという末法思想が蔓延していた時代。村山さんは兎を貴族、蛙を兵隊、猿を実業家に見立て、社会の不安とカオスを表した。その脚本を参考にしたんです」

たとえば、蛇が出てきて動物たちが混乱しているラストの場面が示すのは、現代社会の閉塞感。

「世の中はやるせない事件やいたましいニュースばかり。でも僕は、そういう負のエネルギーを別の力に変えなくちゃと思ったの。アートを見て自分なりの面白さを見つけることは、閉塞感を突破する力になる。青臭いと思われるかもしれないけれど希望をなくさないでほしい。この絵が、そのきっかけになったらうれしいね」

柚木沙弥郎の「鳥獣戯画」

〈神奈川県立近代美術館 葉山館/展示室1〉神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1 TEL 046 875 2800。〜9月8日。9時30分〜17時(入館16時30分)、月曜休館(ただし祝日および振替休日の場合は開館)。

柚木沙弥郎

ゆのきさみろう 1922年東京都生まれ。戦後、民藝運動を牽引した染織家・芹沢銈介に師事。以後70年以上にわたって型染めや絵本、版画から立体まで幅広く制作中。