編集者の知恵が詰まった岡本仁の猪熊弦一郎展。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

編集者の知恵が詰まった岡本仁の猪熊弦一郎展。

『カーサ ブルータス』2019年7月号より

四国村ギャラリーで猪熊弦一郎展の監修を務めた岡本仁。セオリーを無視した編集者ならではの展示方法とは?

持って帰れるタブロイド。  無料配布しているタブロイド。両面に作品が大きくプリントされている。「猪熊さんはアートはひとりで独占せず、みんなが平等に観て、癒され、いろんなことを感じ取るべきだと言っていたんです。持ち帰って貼れば、猪熊さんの作品を飾る場所がまたひとつ増えるしくみです」photo_Hitoshi Okamoto
瀬戸内国際芸術祭2019で、新たに公式アート作品の展示会場となった高松市の四国村。その村内にある四国村ギャラリーで開催中の『猪熊弦一郎展「私の好きなもの」』は、猪熊弦一郎をこよなく愛する編集者、岡本仁が監修を手がけている。

「〈MIMOCA〉(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館)が改装で来年3月まで閉館すると知って、瀬戸芸で猪熊さんの作品が見られないなんて! と愕然としていたんです。そうしたら四国村で猪熊さんの作品を展示したいんですが……と〈MIMOCA〉から話が来て」
両側の壁から迫る絵。 細長い展示室には、両サイドに作品を並べた。「引いて全体を観ることは少し難しいんですけど、絵が自分に迫ってくる間を抜けていくというのは、空間の広い〈MIMOCA〉では味わえない感覚。これまでよく観ていた作品も、ちょっと違って見えるんじゃないかと思います」
安藤忠雄建築の四国村ギャラリーは、所蔵品を中心に展示するコンパクトな会場だ。

「僕は猪熊さんのことは好きですが、展示は全くの素人。備え付けの什器とか、細長い展示室とか、もとの構造をどう使うか考えました。でも編集と一緒で、制約があるほどアイデアが出るんですよ」
入口に作品を。  展示全体を雑誌だと思えば、エントランスを抜けて最初に目に入る作品は雑誌の「扉」ということになる。扉にはインパクトのある作品を、とこの大きな作品を置いた。「実はタイトルが”ランドスケープ・バイ”っていうんです。多分僕だけがププッと思ってます(笑)」photo_Hitoshi Okamoto
展示の監修は初めてだったが、始めると雑誌づくりと変わらないことに気づいた。まずは特集タイトルだと、岡本さんはこの個展を「私の好きなもの」と名づけた。

「ここにあるのは猪熊さんが好きなものでもあるし、僕が好きなものでもある。その視点で作品を選びました。会場に来た人の好きなものになってくれたらなあと」
対話彫刻を横からじっくり。 禁煙時、口寂しくて舐めた飴の包み紙で、暇つぶしに作った不思議な形。それに針金や糸を巻いてオブジェにしたのが対話彫刻シリーズだ。「〈MIMOCA〉では低いテーブルに置かれていたんですが、真横からじっくり眺められます。使い方に悩んでいた壁の什器がぴったりでした」
展示の意図を正しく伝えるため、岡本さんはエッセイを書き、会場に掲示した。なかには「猪熊さんはスター・ウォーズが好きだった」というものも。見せたいのは作品を通じた、猪熊さんという人物の人となりでもあるのだ。

「猪熊さんって面白い人だったよねと思ってほしくて。アートだから難しく見なくちゃいけないことはないし、誰に怒られても自分が好きだったらいいじゃないかって。そんな提案でもあるんですよ」
岡本さんが書いたキャプション。  猪熊弦一郎の多岐にわたる生涯を、人物像がわかるようにまとめて掲示。「猪熊さんの甥と姪にお話を聞いたとき、『おじちゃまはスター・ウォーズが好きだったわね』と言っていて、もしかしてこれC-3PO? と思った作品があって。裏話と作品を同列に並べたかったんです」

猪熊弦一郎展「私の好きなもの」

〈MIMOCA〉の所蔵作品から絵画作品25点、立体作品と愛蔵品50点を展示。香川県高松市屋島中町91 四国村内 四国村ギャラリー TEL 087 843 3111。9時〜17時(入館受付は16時30分まで)。会期は2期制。Part1 〜7月13日、Part2 7月19日〜9月8日。※7月20日は9時〜16時(入館は15時30分まで)大人1,000円・高校生600円・小中学生400円。

岡本仁

おかもとひとし 北海道生まれ。マガジンハウスで『ブルータス』『リラックス』『クウネル』などの編集に携わり、ランドスケーププロダクツに入社。最新刊『また旅。』(京阪神エルマガジン社)発売中。