山下めぐみのロンドン通信|ピーター・ズントー待望の新作は泊まれるリトリート。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

山下めぐみのロンドン通信|ピーター・ズントー待望の新作は泊まれるリトリート。

イギリス南西部、デボン州のカントリーサイド。羊が草を食むのどかな農牧地と海を望む雄大な風景に囲まれ 、ピーター・ズントーが設計した〈セキュラー・リトリート〉が完成した。

ピーター・ズントー。1943年生まれ。スイス人建築家。代表作〈テルメ・ヴァルス〉〈ブレゲンツ美術館〉(コロンバ美術館〉など。 高松宮殿下記念世界文化賞、プリツカー賞、英国王立建築家協会賞などの受賞歴がある。(c) Megumi Yamashita
妥協を拒む一徹な姿勢と独自の作風で、建築界でも別格的な存在のズントー。 待望の新作〈セキュラー・リトリート〉がイギリス南西部、デボン州のカントリーサイド、羊が草を食むのどかな農牧地と海を望む雄大な風景に囲まれた地に完成になった。

作品は哲学者アラン・ド・ボトンが創設した、泊まって体感する現代建築〈リビング・アーキテクチャー〉の一つ。これまでMVRDV、ジョン・ポーソンらによる8作品がイギリス各地に建てられてきたが、計画から10年、建設開始から4年と、例外的に長い期間をかけて完成したのがこの作品だ。

寡作のズントーだが、その作品の多くはかなりの遠隔地にあり、足を運ぶのに「巡礼」に近い覚悟を要す。今回の作品はロンドンから電車で4時間程度の最寄駅から車で30分ぐらいと比較的訪問しやすい。英仏海峡に沿った海岸に近く、緩やかに起伏する牧草地や農地が続く風景に囲まれた場所にある。建設規制が厳しいイギリスでは、こうした農牧地に新たに住宅を建てることはかなり難しい。そのため、公道から奥に入った小さな建物のある農地を買い取り、建物を建て直すという形で実現したプロジェクトになる。
農牧地の私道を進むと姿を表す。周囲のランドスケープも整備中で海まで歩いて行ける距離。
風によって傾斜した松の木に見守られるようして佇む。コンクリートの屋根にも少し傾斜がつけられている。
〈ブラザー・クラウス野外礼拝堂〉と同じように、ドライコンクリートを型枠に入れて固めていく方式で作られた柱や壁。
景色を切り取るフレームのように、ガラス張りの廊下が伸びる。
農牧地の私道を進むと姿を表す。周囲のランドスケープも整備中で海まで歩いて行ける距離。
風によって傾斜した松の木に見守られるようして佇む。コンクリートの屋根にも少し傾斜がつけられている。
〈ブラザー・クラウス野外礼拝堂〉と同じように、ドライコンクリートを型枠に入れて固めていく方式で作られた柱や壁。
景色を切り取るフレームのように、ガラス張りの廊下が伸びる。
この日は完成記念ということで、スイスからやってきた ズントーほか、プロジェクトに関わった人たちが竣工したばかりの物件に集まった。ズントーは詩の朗読に続き、プロジェクトに関わった人たちを労った。

「美しいランドスケープに心を奪われ、ここに建築を作りたいと思った。個人のヴィラではなく、人々が集まり何かをする場を作ろうと。それがみんなの力でこうして完成にこぎ着けた。美しい自然を愛でるために、美しい建築ができたと、嬉しく思っている」

当初の案は大きな岩を積み重ねたような、ある意味原始的な感じがするものであったが、大き過ぎたこともあり変更したのだという。

「木に囲まれているが、北欧的な木の軽い建築でなく、ずっしり重いものを表現した。壁や柱は、地元の土や砂利と混ぜたドライコンクリートを型枠に入れて突き固めたもの。一日分の作業がシマのように見えるので、手仕事の軌跡が感じてもらえるだろう」