酒蔵と名門スポーツカー、不易流行に魅入られる。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS facebook-a facebook instagram line twitter youtube

酒蔵と名門スポーツカー、不易流行に魅入られる。

創業150年を超える富山の若鶴酒造。一方ジャガーも最初のスポーツカー発売が約80年前、まだジャガーカーズを名乗っていない時代だった。変わらぬ価値と新しい動きのマッシュアップ、さすがなり!

1922(大正11)年に建てられた木造の酒造り工場を大規模なリノベーションによって研修施設に蘇らせた若鶴大正蔵。ジャガーFタイプもEタイプから約半世紀を経て生まれた。
日本酒好きなら〈苗加屋〉の名はご存じではないか。若鶴酒造のイチ押し、「無濾過・生・原酒」が売りの人気ブランドだ。大正蔵とは、大正時代に建てられ、酒造りのメインの場として長年使われてきた木造建築で、地元砺波市の、「ふるさと文化財」に登録されている。'50周年の記念事業として、このようなリノベーションに至ったのだった。

かつての屋根や外壁をそのまま生かして内部を変える、という再生とは違い、ほぼ全面的な改築だが、酒蔵ならではの思想性や精神性はしっかり継承された雰囲気があり、そこがいちばんの魅力になっている。

館内は造り酒屋の仕事場に共通する行き届いた清潔感と、とにかく旨いものを丹精込めて造らなくてはならぬ、という緊張感や意志のようなものが、この新しい建物の内部にもまだ漂っている感じがする。階段状のフロアに設置されたテーブル席は、本来は催しを観る側のためのものだが、ここではむしろ観に来たゲストこそが主役として遇されるような演出がなされている。これも造り酒屋に試飲などで訪れたときの居心地の良さに通じるものがあるのだ。

ずっとジャガーを乗り継いできた人にとってFタイプは驚きの塊だろう。ジャガーらしさ、と言われ愛され敬されてきたあの感覚はどこにもない。よく言えばしなやかで優雅、反対から評すればユルくて曖昧なあの乗車感覚。エンジンスタート・ボタンを押せば爆音とともに始動、ステアリングは重めでガッシリとスポーティー、何より盛り盛りのエンジントルクには心底驚かされる。このクルマのどこがジャガーなんだろう?

しかしこれも酒で言えば最初の香り、舌触りのようなもので、次に来る旨み、喉ごし、時を経てやってくる酔い心地こそが本質だ。一見、伝統とは無関係に感ずるものは時代的なわかりやすさと取っつきやすさを狙ったもの。ジャガーの長年培ってきたドライビングファンはその後からやってくる。ひと言で言えば運転の楽しさと深さが一体となっていること、そしてそれが信仰のようなトランス状態にまでつながっていくこと。まさに不易流行なのである。
銘木と本革によるジャガー伝統のインテリアとは別世界。が、運転操作はしやすく、すぐに馴染む。
不易流行といえばこのエンブレム。
排気管の先端がちょっと上向きなのがポイント、これだけで若々しい雰囲気が出ます。
館内の展示室にかつて活躍した仕込み用の樽が並んでいた。
階段状のゲスト席。手前後ろがステージ側になる。

巡礼車:ジャガー F-TYPE V8 S Convertible

かつて60年代にEタイプという名車があり、その後継という意味でのFタイプである。歌舞伎役者の襲名みたいなものだろう、ジャガーの力の入れ方には感動さえ覚える。エンジンはすべてスーパーチャージャー付きで、これは495馬力の5LV8、ほかに3LV6(2種)もある。12,860,000円(ジャガーコール TEL 0120 050 689)。公式サイト

巡礼地:若鶴大正蔵

設計/金沢工業大学蜂谷研究室(基本計画)、蜂谷俊雄+金沢計画研究所(実施設計)。約24×33×8m、建築面積約800㎡と大きな寺社のような木造建築。既存の木材をできるだけ生かしながら、現代の知見を駆使して法的制限を克服した力作だ。見学可。●富山県砺波市三郎丸208。公式サイト