【追悼:ジョエル・ロブション】日本を愛した“フレンチの神様”。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

【追悼:ジョエル・ロブション】日本を愛した“フレンチの神様”。

世界中の美食家たちに衝撃を与えた、"フレンチの神様"ジョエル・ロブションの急逝。本誌にも幾たびも登場し、料理の真髄を分かち合ってくれた彼の功績を振り返る。

今年3月、パリ〈ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション・エトワール〉にて。
8月6日、フレンチの巨匠、ジョエル・ロブションが73歳でこの世を去った。15歳で料理の道に入り、80年代に「フレンチの神様」と賞賛された世紀のシェフは、最後まで真摯に食の歓びを私たちに発信し続けた。20世紀から21世紀、ガストロノミーの変革期に、自身の食の原点に忠実に常に先を見据えたロブションは、本誌にも時代の食を読み解く多くの知見をもたらしてくれた。

料理見習いの修道院の調理場から、パリに自身のレストラン〈ジャマン〉〈ジョエル・ロブション〉を開き、世界の美食家を唸らせた30~40代。ときに繊細でまた大胆な発想のもと、数々の伝説のレシピを生み出し「世紀のシェフ」と絶賛されたまさに全盛期の1996年、50歳を機に現役シェフとしての引退を宣言。料理界に衝撃を与えた。その後2003年に〈ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション〉1号店を六本木ヒルズに開き、翌年、恵比寿に森田恭通が内装を手がけた〈シャトーレストラン ジョエル・ロブション〉をリニューアルオープン。開店準備のために行き来する東京とパリへ、またロブションを世界一のシェフと崇拝する〈エル・ブリ〉のフェラン・アドリアを訪ねてともにスペインへと、本誌のために世界各地に同行してくれた。
2002年、〈エル・ブリ〉のフェラン・アドリアを訪ねたジョエル・ロブション。(photo_Kinta Kimura『Casa BRUTUS』2002年7月号より)
自身を尊敬するフェラン・アドリアとは、生涯友好的な関係を築いていた。(photo_Kinta Kimura『Casa BRUTUS』2002年7月号より)
2002年、〈エル・ブリ〉のフェラン・アドリアを訪ねたジョエル・ロブション。(photo_Kinta Kimura『Casa BRUTUS』2002年7月号より)
自身を尊敬するフェラン・アドリアとは、生涯友好的な関係を築いていた。(photo_Kinta Kimura『Casa BRUTUS』2002年7月号より)
「焼きナスはセップ茸の香りがすると思わない?」その気づきからわずかにカレー風味の香るキャビア・ドベルジーヌ(焼き茄子のピュレ)のシンプルで目の覚めるようなレシピの誕生を語り、「見習いの頃、レストランが休みの日曜は(従業員用の食事のない日)缶詰のオイルサーディンとバターの相性の良さにそればかり食べていた」と笑いながら数々のエピソードを語ってくれたロブション。世界最高級のフレンチを生み出すシェフはいつも、価格や希少性よりも、むしろ当たり前な食材に潜むデリケートだが確かな可能性を掴み、それを追求することが、素晴らしい料理を生む鍵なのだと幾度も披露してくれた。ジャガイモ、バター、牛乳のみで、誰もが知るジャガイモのピュレをガストロノミーの黄金レシピに変えたシェフ。揺るがぬ信条に触れる思いがした。「珍しい食材や、ただ一見の目新しい料理の趣向に囚われてはいけない」。一つ一つの食材への敬意、地産地消など、昨今の料理界の潮流をすでに長く実践するシェフだった。

こよなく愛する銀座〈すきやばし次郎〉の寿司カウンターと、長年バカンスで訪れるスペイン、カタルーニャの名タパス店の目の前で給仕する生き生きとした料理の歓びが〈ラトリエ〉の原点、と語ったロブション。「21世紀、人々が求める食の歓びの形は緩やかに変わる」と、その後の料理界の変遷を暗示した。だからこそ、美味しいとは? 幸せな食事の時間とは? 食のプロも、またメディアに携わる者たちも、この問いに真摯に向かい合わなければならないのだと私たちに伝え続けてくれた。
六本木の〈ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション〉にて。
世界の美食家から最高級の賛辞を受ける、恵比寿の〈シャトーレストラン ジョエル・ロブション〉。
〈シャトーレストラン ジョエル・ロブション〉のコースの一例より。
六本木の〈ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション〉にて。
世界の美食家から最高級の賛辞を受ける、恵比寿の〈シャトーレストラン ジョエル・ロブション〉。
〈シャトーレストラン ジョエル・ロブション〉のコースの一例より。
彼の料理に「おいしい!」と思わず声が出ると「Je ne suis pas bête, comme-même ?/私も、そう愚かではないだろう?」とチャーミングに微笑んだロブション。その食卓は幾千もの人に幸せな時をもたらし、彼の料理の技術とエスプリを受け継ぐ数多くの素晴らしいシェフたちが、今日も世界中でその幸せの時を新たに紡ぐ。世紀を超えて料理界を支え続けた巨木を失った悲しみは、あまりにも深い。だが、人が食べることをやめない限り、ジョエル・ロブションが残してくれた宝物はこれからもずっと息づいていくだろう。