ファッション、アート、建築を越境する〈Off-White〉ヴァージル・アブローの思考を探る。|石田潤の In the mode | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

ファッション、アート、建築を越境する〈Off-White〉ヴァージル・アブローの思考を探る。|石田潤の In the mode

ファッション界で今、最も話題に上がる人物といえば、つい先日、ルイ・ヴィトンのメンズ アーティスティック・ディレクターへの就任が発表された〈Off-White〉のヴァージル・アブローだろう。カニエ・ウェストのクリエイティブ・ディレクターという華やかな経歴の持ち主は、イリノイ工科大学大学院で建築を学んだという過去も持つ。そんな多才な彼が、今度はアートの世界に足を踏み入れた。記念すべき初の個展発表の場は、村上隆が主宰する〈カイカイキキ・ギャラリー〉。果たして、ヴァージルはそこで何をみせたのか?

展覧会場となる〈カイカイキキ・ギャラリー〉でのヴァージル・アブロー。
ここのところ、ヴァージル・アブローの名前をあちこちで耳にする。ファッション界を席巻する「ラグジュアリー・ストリート」をリードする〈Off-White〉のクリエイティブ・ディレクター。ナイキの「The Ten」をはじめ、次々と話題のコラボレーションを仕掛ける新コラボ王。ファッション界注目の人物であることは間違いない。とはいえ、自分にとってヴァージルはどこか遠い存在だった。

そんな彼の存在をぐっと身近に感じたのは、昨年発売された『System Magazine』の特集を目にした時だった。コラボレーションを進行中のIKEAとのリサーチブックも付録についた分厚い雑誌のなかで、ヴァージルはキュレーターのハンス・ウルリッヒ・オブリヒト、そして建築家のレム・コールハースと対談していた。建築を学んだとは聞いていたが、対談相手にこのメンツを選ぶとは……それぞれ建築、アート界でも最もハードコアな2人である。彼らに建築愛、そして自身の建築的思考を語る(ピッチする)ヴァージルは、どこか微笑ましくもあった。そして今年1月、何気なく〈カイカイキキ・ギャラリー〉の展示ラインナップを見ていたら、そこにヴァージル・アブローの名を見つけた。カイカイキキに問い合わせると、3月の東京での個展に先駆け、2月のロンドン・ファッションウィーク期間中に、〈ガゴシアン・ギャラリー〉で村上さんとの二人展をやるという。このスピード感に脱帽した。
黒いペインティング作品には実在する企業名が添えられている。タイトルも企業名に。
(左から)“JCDecaux” 2018年(Oil on canvas 3200 x 1430 mm)、“dollar a gallon” 2018年(Multi media 
3418 x 1750 x 500 mm)、“OUTFRONT” 2018年(Oil on canvas
 3200 x 1430 mm)

そして3月、ついに東京の〈カイカイキキ・ギャラリー〉で、ヴァージル・アブローの日本初個展『"PAY PER VIEW"』が幕を開けた。来日したヴァージルに、建築そしてアート制作について話を聞いた。

――まずはあなたのバックグラウンドについて聞かせてください。大学でエンジニアリングを学んだ後、建築を専攻するために大学院に進みましたね。いつから建築に興味を抱くようになったのですか?

大学でエンジニアリングを学んだのは、エンジニアだった父の勧めです。その当時は、まだ何に興味があるのかわからなかった。大学の人文系のクラスで芸術史を取り、カラヴァッジオなどルネッサンスの画家もまた、実用的なことを開発するエンジニアリングと同様に、新しい絵の技術を発明したのだと思いました。このことが僕の世界に対する見方を変え、この世界は実用的なものと想像的なものから出来ていると気がつきました。すぐにこれまでとは違うことをやりたいと思いました。
中央の映像作品はミースの〈バルセロナ・パビリオン〉で撮影したもの。
手前の椅子もヴァージルがデザインした。(左から) “up-to-date” 2018年 (Flip dot sign 〈multi media〉3400 x 445 mm)、“non-cable channel” 2018年(Digital Media LED Panel & Chair 8 EDITIONS 
2040 x 920 x 257 mm)
建築を選んだのは、大学での経験を活かしたかったこともありますが、シカゴにイリノイ工科大学があったこともその理由の一つです。建築だけでなくマスタープランを学べるなどカリキュラムが充実していて、何よりミース・ファン・デル・ローエが設計した〈クラウンホール〉がありました。

シカゴにあるミースの建築は、エンジニアリングと建築の完璧な結合です。彼の建築は、通常は隠されているものを表に出します。その美学に惹かれました。また、大学院を終える時にちょうどレム・コールハースの〈マコーミック・トリビューン・キャンパス・センター〉が完成しました。建物が作られてゆく様子を目の当たりにして、より実際的なレベルで建築を理解することができました。

また、僕は〈2×4〉のマイケル・ロックのクラスを取っていました。マイケル・ロック、レム・コールハース、そして彼らが取り組んでいたプラダとのプロジェクト、この3つが僕キャリアの基本となるものです。建築的思考に基づきファッションを考えるインスピレーションとなりました。