設営再開を待つファッション展『ドレス・コード?―着る人たちのゲーム』|石田潤の In the mode | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

設営再開を待つファッション展『ドレス・コード?―着る人たちのゲーム』|石田潤の In the mode

京都、熊本での開催を経て、〈東京オペラシティ アートギャラリー〉で開催予定のファッション展『ドレス・コード?―着る人たちのゲーム』。緊急事態宣言の発令を受けて作業を中断した会場から、現在の展示の様子をリポートする。

ファッションを巡る13の問いかけとともに構成される展示。アートとファッションの関係性を問う「06.教養は身につけなければならない?」では、コム デ ギャルソンの作品を中心に展示を構成。中央に写るのは高橋真琴のイラストを大胆にフィーチャーした2018年春夏のコレクション。
「イメージとして衣服を見る(とき)、人は書かれた衣服を読んでいるのだ」(ロラン・バルト『モードの体型―その言語表現による記号学的分析』佐藤信夫訳、みすず書房)と唱えたのはロラン・バルトだが、私たちが毎日クローゼットから選び、身に付ける服には意味があり、ファッションとは歴史的、社会的、文化的な記号(コード)である 。なんて書くと難しそうだが、〈東京オペラシティ アートギャラリー〉で開催を待つファッション展『ドレス・コード?―着る人たちのゲーム』は、日頃無意識の中に沈みがちな服を着る意味について、改めて気づかせるものだ。4月の緊急事態宣言を受け、展示準備の最中で作業の中断を余儀なくされ、再び動き出す日をひっそりと待つ展示会場を訪れた。
《ドレス(ローブ・ア・ラ・フランセーズ)》(1770年代後半)。端正な刺繍やレース使いは、身に付けるものの身分を表す。
18世紀フランス貴族の衣服のバッグを飾るのは、大ヒット漫画『イノサン』の作者・坂本眞一による描き下ろしイラスト。
展覧会は、ドレス・コードにまつわる13の問いかけとともに構成される。会場を入るとまず現れるのは、「00.裸で外を歩いてはいけない?」という言葉だ。このセクションには、イタリアの現代美術家ミケランジェロ・ピストレットによる、山と積まれた古着を前に裸のヴィーナス像がたたずむインスタレーション作品《ぼろきれのビーナス》が展示される予定だが、取材時には作品の輸送が中断しヴィーナスは不在だった。続く「01.高貴なふるまいをしなければならない?」では、18世紀の貴族が着用した華やかなドレスとスーツとともに、フランス革命期をフィーチャーした漫画『イノサン』の坂本眞一によるイラストが展示される。階級社会では、レースや刺繍などをふんだんに施した豪奢な服は、身につけるものの地位や権力を示す象徴でもあった、というわけだ。
スーツがずらりと並ぶ展示のイメージは、トム・ブラウンのショーにインスパイア。先頭に立つのはヴィクター&ロルフによる2003年秋冬のコレクション、隣はNYの老舗紳士服店ロジャース・ピート・カンパニーの1900年代のスーツ。
グレーのスーツでも印象は三者三様。右からアメリカン・トラディショナルを現代に蘇らすトム・ブラウン(2016年)、ボディ・コンシャスなラインが時代を感じさせるクロード・モンタナ(1990年秋冬)、ジャケットにスカートを合わせたコム デ ギャルソン(2009年秋冬)。
時代とともにスーツ・デザインも多様化していった。千鳥格子のピエール・カルダンのスーツ(左/1975年頃)は当時流行していたモッズ・スタイルの影響が感じられる。山本耀司によるワイズのスーツ(中央/2007年秋冬)は華やか、ストラップをあしらったヘルムート・ラングのスーツ(右/2003年秋冬)はスタイリッシュだ。
近代に入り中産階級が台頭してくると、街をスーツ姿の男たちが闊歩するようになる。「02.組織のルールを守らなければならない?」は、1900年代から現代まで、時代とともに形を変えてきたスーツが一堂に会する。スーツや制服といったユニフォームは、組織や集団に属することを視覚的に示すものであり、そのユニフォームを正しく着ることで組織・集団は守られる。しかしルールは守られるととともに、破られ、更新されてゆくもの。コム デ ギャルソンが2009年秋冬に発表したジャケットにスカートを合わせたメンズのスーツスタイルは、男性が着用するスーツのルールを壊すとともに、ジェンダレスな時代の新しいスーツ像を打ち出した。
「03.働かざる者、着るべからず?」の展示。デニムに繰り返し取り組む渡辺淳弥のロマンティックなスタイル(手前左/ジュンヤ ワタナベ コム デ ギャルソン2002年春夏)、アズディン・アライアのボディ・コンシャスなデニムスタイル(手前右/アライア1986年春夏)などが登場。
玉井健太郎が2009年に立ち上げたブランド、アシードンクラウドの作品。19世紀後半から20世紀初頭のワークウェアをモチーフにしている。
「04.生き残りをかけて闘わなければならない?」には、迷彩柄とトレンチの作品が集合。ジャン=ポール・ゴルティエの着物(手前左から2番目/2000年)やジョン・ガリアーノによるディオールのドレス(中央/2001年春夏)、栗原たお(手前右から2番目/タオ コム デ ギャルソン2006年春夏)などが揃う。
ファッションの定番アイテムであるトレンチは、デザイナーにより様々に解釈される。テクノロジーを取り入れた服作りで注目されるアンリアレイジのトレンチコート(左/2011年秋冬)と着物の平面性を取り入れたビューティフルピープルのコート(右/2017年秋冬)。
ワーク・スタイル、ミリタリー・スタイルは、ファッションのトレンドにも繰り返し登場するスタイルだが、デニム(「03.働かざる者、着るべからず?」)、トレンチと迷彩柄(「04.生き残りをかけて闘わなければならない?」)といったアイテムは、デザイナーたちによる革新的な作品の登場とともに、仕事着や軍服といった本来の出自から切り離され、ファッションアイテムとして進化していった。ボディコンの代名詞、アズディン・アライアのセクシーなデニムのワンピース(1986年)はデニムという素材に纏わるワークウェアあるいはヒッピーといったイメージを覆し、ジョン・ガリアーノが2001年に発表したディオールの迷彩柄のイヴニング・ドレスは、戦闘服と夜会服という相異なる2つの世界を結びつけた。ロゴもまた、ファッションの中で独自に発展していった記号のひとつだ。

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