天才マックイーンの光と闇|石田潤のIn the mode | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

天才マックイーンの光と闇|石田潤のIn the mode

華やかなファッションの世界を駆け抜けていったアレキサンダー・マックイーン。天才デザイナーのクリエイションの光と闇に、真っ向から取り組んだドキュメンタリー映画『マックイーン:モードの反逆児』が間もなく公開される。

コレクションの制作に取り組むマックイーン。デビュー当時は、失業手当で服作りのための生地を買っていたという。
ファッション・デザイナー、アレキサンダー・マックイーンのドキュメンタリー映画『マックイーン:モードの反逆児』は美しく、そして哀しい映画だ。彼が生み出した数々のコレクションと同じく、その生涯もまた美と哀しみに溢れていた。

リー・アレキサンダー・マックイーンは、1969年ロンドンのイーストエンドに生まれた。イーストエンドといえば今はショーディッチなどに代表されるヒップエリアのように捉えられているが、古くは「切り裂きジャック」の事件も起きたロンドンで最も貧しく犯罪も多かったエリアである。このイーストエンド生まれということは、マックイーンの人生、そしてその作品において常に大きな要素であり続けた。映画の冒頭で、「心の奥深くの闇から恐ろしいものを抜き出してランウェイに乗せるんだ」とマックイーンは述べているが、生まれ育った世界の闇は、拭えない血のように彼の生涯にまとわりついた。
2001年春夏コレクションのバックステージでのマックイーン。作品中でもジョディ・キッドが「彼には最強のモデル軍団が付いている」とコメントしているように、彼はモデルたちからも愛された。
映画では、16歳からサヴィル・ロウで働き始め、ロメオ・ジリ、タツノコウジといったデザイナーのもとで学んだマックイーンの若き日々にも触れられているが、マックイーンの才能は早くから認められていた。その後、彼はデザイナーとして独り立ちするためにファッションの名門校「セントラル・セント・マーチンズ」へと進むが、卒業ショーで発表されたコレクションをイザベラ・ブロウが全て買い上げたというのは伝説的なエピソードである。

貴族階級出身のファッション・エディター、イザベラ・ブロウはこの映画のもう一人の主役だ。彼女はマックイーンのファッション界における母であり、パトロンでありミューズであった。イザベラとマックイーンの関係は、最初は愛とクリエイティビティに満ちていたが、マックイーンが成功の階段を登るにつれ悪化してゆく。イザベラは2007年に自らの命を絶っているが、和解できぬままこの世を去った彼女の死はボディブロウのように彼を蝕んでいった。