古賀 充の新シリーズはペンキ缶。そこに表れた、ピュアな形と素材。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

古賀 充の新シリーズはペンキ缶。そこに表れた、ピュアな形と素材。

『カーサ ブルータス』2018年7月号より

造形作家・古賀 充の新作は、平面に落とし込んだペンキ缶。鍛錬された技術で、形と素材の美しさが浮かび上がります。

新作《PAINT CAN》の素材は、金属板とワイヤー、ペンキ、そして木片。それぞれのパーツが手仕事の跡を感じさせない緻密さで組み立てられている。
海辺の石を削り出した小さな花瓶や、平面に置き換えたダンボールの作品などで、見る者に新鮮な発見を与えてくれる造形作家の古賀 充。今回の新作はペンキ缶がモチーフだという。

Q ペンキ缶に着目した理由は?
自宅の外壁の塗り替えを頼んだ職人さんが、年季の入った調合用のペンキ缶を持っていたんです。家の壁の色にはある傾向があって、ペンキ缶にはその要素が自然と蓄積されている。外壁塗装の傍らで、意図せず生まれたその缶の佇まいから、街の景色を感じられるのが面白いなと思ったんです。

Q 既製品を使う過程で、そこに個性が生まれていく面白さは、刷毛や工具を削り出した《アトリエ》シリーズとも共通点がありますね。
そうですね。ペンキ缶の形を平面で表したという点では、ダンボールの《FLAT》シリーズや立体図形をワイヤーによって平面に描いた《WIRE》シリーズの延長でもあります。個別に考えてきたシリーズが気づけば合流していた。自分でも新鮮に感じています。
缶の側面と内部は2枚の金属板に分かれており、それをワイヤー部分で裏側からはんだ付けして接着。的確な工程が端正なシルエットをつくっている。
缶の側面と内部は2枚の金属板に分かれており、それをワイヤー部分で裏側からはんだ付けして接着。的確な工程が端正なシルエットをつくっている。
Q 制作では工程を考え抜くことを大事にしているそうですね。
はい、何度も試作を繰り返し、工程の最適解を見つけること自体が僕の作品だと言ってもいいくらいです。時にはそれに1年かかることもあります。例えばペンキ缶の取っ手はワイヤーで作っていますが、あの曲線はワイヤーの弾力を生かして、左右から一定の力を加えて造形しています。単に自分の感覚でカーブを決めるのではなく、素材らしさを見極め、そこから形を導き出したい。それに自分がやるなら手で作らないと意味がないとも思っていて、機械で作ったようには見えないけれど、手仕事の跡も感じられない。その丁度いいバランスを目指しています。

Q 古賀さんは何かを観察し、そこから色や形を抽出することを大切にしていますね。自分の感覚を頼りに制作はしないのですか?
そうですね。制作の基盤は、自分の感覚ではなく、「観察」なんです。今回のペンキ缶も、一見、自由に色を選んでいるように見えるかもしれませんが、実際はペンキが塗られた建物を探し歩いて、その壁や屋根の色を配色に取り入れています。赤いペンキの「赤」も、屋根の塗装に使われるようなくすんだものを選んだり。そうやって自分の感覚やセンスではないところから引用するほうが見た人の記憶を呼び起こしたり、懐かしさを感じるきっかけをつくれるかもしれない。素材や形の楽しさはもちろん、そういった感覚も共有できたらと思っています。

古賀 充

こがみつる 造形作家。日常に潜む美しさや面白さを、さまざまな手仕事によって作品にし、発表。作品集や絵本も制作する。主な作品集に『SEA STONE VASES』『LEAF CUTOUTS』『Driftwood Dinosaurs』『Atelier』がある。