土田貴宏の東京デザインジャーナル|ポエジーの核に哲学がある、澄敬一のオブジェ | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

土田貴宏の東京デザインジャーナル|ポエジーの核に哲学がある、澄敬一のオブジェ

アンティークの古材などを素材に独創的なオブジェを作りつづける澄敬一の個展が開催中だ。ユーモラスで愛らしく見える作品のひとつひとつに、デザインの原点に根ざした深みがある。

古い木製の救急箱の表面を削った箱の中に、アルミの弁当箱や包帯などを収めて、下部の引き出しにトイピアノを合体させた《救急箱ピアノ 外科用》。2015年制作。
今から15年ほど前、東京・池尻大橋に〈push me pull you〉という不思議なショップがあった。ハンス・ウェグナーなどのヴィンテージ家具、東京湾で拾ったというカトラリー、美術系の古書、そして手作りのオブジェなどが並ぶその店では、いつもオーナーがコーヒーを淹れて客を迎え、アートやデザインの話が延々と続いた。彼がセルフメイドで設えた空間と機知に富んだ会話を目当に、やがてさまざまな人々が集まるようになった。
池尻大橋の〈push me pull you〉にもあった《電気花》。ラジオの電光表示などに使われていた小型のネオン管を電線でつないだ正二十面体の作品。2001年制作。
クラスカ”DO”で3月5日まで開催中の『push me pull you』展では、同名の新著から広がる澄敬一の世界が堪能できる。
間もなくクローズしたその店の主であり、現在は早稲田の 〈プティ・キュ〉を拠点に活動する澄敬一の個展が、クラスカ”DO”で開催されている。澄は1964年函館生まれ。建築を学び、設計事務所で働いた時期を経て、ヨーロッパへの旅行などを通じて多くのアンティークに触れるようになった。〈push me pull you〉を始める前後からアンティークを素材にした作品を手がけはじめ、数年おきに国内外でエキシビションも行っている。
澄の作品は、アンティークを主な素材に、手作業で加工を施す。それぞれに独自のコンセプトがあり、高い審美眼が発揮されている。
曲げ木椅子の背、スコップの柄、ボートのハンドルを組み合わせて制作した《杖》。2008年制作。折り畳み座卓の脚を再使用したフックは、シェーカーの壁面収納を連想させる。
本展は、ロサンゼルスの人気店〈トータス〉から澄の新著『push me pull you』が発行されたのを記念したものだ。この本に収録されている作品を中心に、今まで作りためてきた数々の作品を通して、ユニークな創造性に浸ることができる。彼の作品のパーツの大半は、日本をはじめとした世界各国のアンティーク品。そして、それらをさまざまに加工してブリコラージュしていく。やがて架空のストーリーと結びついたオブジェが完成する。