DESIGN
土田貴宏の東京デザインジャーナル|ポエジーの核に哲学がある、澄敬一のオブジェ
February 22, 2017 | Design | casabrutus.com | photo_Kenya Abe text_Takahiro Tsuchida
アンティークの古材などを素材に独創的なオブジェを作りつづける澄敬一の個展が開催中だ。ユーモラスで愛らしく見える作品のひとつひとつに、デザインの原点に根ざした深みがある。
今から15年ほど前、東京・池尻大橋に〈push me pull you〉という不思議なショップがあった。ハンス・ウェグナーなどのヴィンテージ家具、東京湾で拾ったというカトラリー、美術系の古書、そして手作りのオブジェなどが並ぶその店では、いつもオーナーがコーヒーを淹れて客を迎え、アートやデザインの話が延々と続いた。彼がセルフメイドで設えた空間と機知に富んだ会話を目当に、やがてさまざまな人々が集まるようになった。
間もなくクローズしたその店の主であり、現在は早稲田の 〈プティ・キュ〉を拠点に活動する澄敬一の個展が、クラスカ”DO”で開催されている。澄は1964年函館生まれ。建築を学び、設計事務所で働いた時期を経て、ヨーロッパへの旅行などを通じて多くのアンティークに触れるようになった。〈push me pull you〉を始める前後からアンティークを素材にした作品を手がけはじめ、数年おきに国内外でエキシビションも行っている。
本展は、ロサンゼルスの人気店〈トータス〉から澄の新著『push me pull you』が発行されたのを記念したものだ。この本に収録されている作品を中心に、今まで作りためてきた数々の作品を通して、ユニークな創造性に浸ることができる。彼の作品のパーツの大半は、日本をはじめとした世界各国のアンティーク品。そして、それらをさまざまに加工してブリコラージュしていく。やがて架空のストーリーと結びついたオブジェが完成する。
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illustration Yoshifumi Takeda
土田貴宏
つちだ たかひろ デザインジャーナリスト、ライター。家具やインテリアを中心に、デザインについて雑誌などに執筆中。学校で教えたり、展示のディレクションをすることも。