カッシーナが捧げる、 ジャンヌレへのオマージュ。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

カッシーナが捧げる、 ジャンヌレへのオマージュ。

『カーサ ブルータス』2020年7・8月合併号より

巨匠ル・コルビュジエとの協業で知られるピエール・ジャンヌレ。彼がインド・チャンディガールの都市計画の一環として自ら手がけたとされる伝説的な家具を、〈カッシーナ〉が甦らせた。

CAPITOL COMPLEX OFFICE CHAIR キャピトル・コンプレックス オフィスチェア チャンディガールのキャピトル・コンプレックスで使われている代表的な椅子。逆V字形の一対のサイドバーで構成された、シャープなフレームのシルエットが際立っている。座面と背もたれは籐のカゴメ編み。オークのブラック塗装仕上げは、〈カッシーナ〉の既存の家具との相性もいい。350,000円~。

〈ヴァネッサ・ミトラーニ〉のガラス花器70,000円、〈カッシーナ〉のラグ《マリア》620,000円〜(共にカッシーナ・イクスシー青山本店 TEL 03 5474 9001)。本間秀昭の彫刻《風帆》、谷口倫都の彫刻《海辺のたから》(共にwamono art https://wamonoart.com)。
CAPITOL COMPLEX CHAIR キャピトル・コンプレックス チェア アームレストがなく、逆V字形のフレームが座面を支える椅子は、ダイニングチェアとしても使いやすい。座面と背もたれのフレームは直交し、背に当たる部分は角度をつけて座り心地を高めている。木目の美しいチークは、現地で使われた椅子の材質に近い。座面用のクッション(別売)もある。260,000円~。
CAPITOL COMPLEX TABLE キャピトル・コンプレックス テーブル キャピトル・コンプレックスの立法議会棟で使われた大型のカンファレンステーブルが原型。無垢材のベース部分は、V字形と逆V字形が交差するユニークな構造で、椅子との調和を図っている。木天板のサイズは幅270cm、奥行き130cm。木天板1,500,000円~、ガラス天板1,100,000円~。

〈サスギャラリー〉のワインクーラー50,000円、タンブラー右25,000円、左27,000円、〈ダネーゼ〉の花器《バンブー ベースD》42,000円(以上カッシーナ・イクスシー青山本店)。枝を生けた生野徳三の彫刻《風光》、網代編盛籃の彫刻《潮騒》(共にwamono art)。
・インドに花開いたモダニズム、その遺産を継承する意味。

チャンディガールの建築群は、ル・コルビュジエの代表作として世界文化遺産に登録されている。その家具は、上質なモダニズムと地域性を反映する。


イタリアの〈カッシーナ〉は、20世紀建築の巨匠であるル・コルビュジエがデザインした家具を、半世紀以上にわたり製造してきた。その大半が、1920年代に彼の設計事務所に在籍したシャルロット・ペリアンとピエール・ジャンヌレとの共作だったことはよく知られている。その後、ペリアンはインテリアデザイナーとして独立し、世界的に活躍。そしてジャンヌレは、一時は独立して自身の道を歩むものの、50年からル・コルビュジエが取り組んだインドのチャンディガールの都市計画のため、再び手を組むことになった。

巨匠の指揮の下、ジャンヌレはそのチーフアーキテクトとして14年間にわたり現地に滞在する。彼らは従兄弟同士でもあり、揺るぎない信頼関係があったのは間違いない。チャンディガールのプロジェクトは、ル・コルビュジエの生涯で実現した唯一の都市計画として歴史に刻まれていった。
PIERRE JEANNERET ピエール・ジャンヌレ 1896年スイス・ジュネーヴ生まれ。1922年にパリでル・コルビュジエと建築事務所を設立。チャンディガール都市計画のチーフアーキテクトとして51年から65年までインドに滞在し、重要な役割を果たした。67年没。Le Corbusier and Pierre Jeanneret.Ph.Jeet Malhotra.©FLC/ADGP
2016年、ル・コルビュジエの建築作品群はユネスコの世界文化遺産に登録された。チャンディガールの行政庁舎、立法議会棟、高等裁判所が集中するキャピトル・コンプレックスも、その対象になっている。これまで〈カッシーナ〉は、ル・コルビュジエ財団と共に彼について調査研究を進めてきたが、世界遺産登録を受けてチャンディガールの研究を本格化。ジャンヌレの功績があらためて評価され、彼が都市計画に際して手がけたと見られるバリエーション豊かな家具にも光が当てられた。

チャンディガールにおいてジャンヌレは、キャピトル・コンプレックスの建築物はじめ、市内の大学、図書館、住宅などの家具を新たにデザインしたとされる。その特徴は、周辺地域で採れたチークの無垢材を使い、逆V字形のフレームを多用したことだ。先端に向けてテーパーした脚部は、構造的に理に適っている。またフレームに曲線を用いず、全体を直線的に構成したのは、工業化が進んでいなかった地元の家具工房への配慮かもしれない。だからこそ少々無骨だが、モダンで力強いシルエットが生まれた。
チャンディガールはインド北部パンジャブ州の州都。キャピトル・コンプレックスは、人体をモチーフにした都市計画の頭の部分に当たり、北東端に位置している。Master plan of Chandigarh showing numbered sectors, drawn in 1951 revised in 1953. ©FLC/ADGP
人工池に面し、シンボリックなU字形の屋根をもつキャピトル・コンプレックスの立法議会棟。©Aflo
立法議会棟のロビー。ジャンヌレやル・コルビュジエによる家具が使用されている。©F.L.C./ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2020 E3769
籐張りの座面が多いのも、現地での作業が可能で、インドの気候に向いていたからだろう。一方、高等裁判所などには、パッディングを施した安楽性の高い椅子も置かれた。逆V字形の構造は共通でも、プロポーションや素材の組み合わせにより、その場に応じたデザインを巧みに生み出したのだ。

今回、〈カッシーナ〉は、キャピトル・コンプレックスで使われてきた4種類の家具の製造を開始した。これは正確には「復刻」でなく、ジャンヌレへのオマージュなのだという。その理由を、〈カッシーナ〉のアーカイブ担当でキュレーターのバーバラ・レーマンは、こう説明する。

「私たちはデザインの真正性(オーセンティシティー)を最大限に尊重します。チャンディガールの家具は、地元の職人によってディテールの個体差がある状態で製造されてきました。そのため、実在する作品をオリジナルモデルであるとは言い難いのです。ジャンヌレがチャンディガールの設計の主要人物であり、多くの家具の作者だと考えられますが、証拠書類はありません。だから彼へのオマージュなのです」

AIがあなたにおすすめ

※過去の記事も表示されます