CULTURE
ジャコメッティの裏も表も描き尽くす映画。
December 20, 2017 | Culture, Art | casabrutus.com | text_Naoko Aono editor_Keiko Kusano
2017年に開かれた回顧展も話題になったジャコメッティ。極限まで細い人体彫刻や影のような目がこちらを見据える肖像画の裏にあった悲喜劇を見せる映画です。
誰もが知る巨匠に「肖像画を描きたい」と言われたら、断るのは難しい。彼(または彼女)がいったいどんなふうに描いていくのか、できあがりは果たして自分に似ているのか。アメリカ人作家であり、美術評論家のジェイムズ・ロードは1964年のパリですでに名声を得ていた芸術家、アルベルト・ジャコメッティ1901〜1966年)からモデルを務めるよう頼まれる。針金のように細い人体の彫刻や絵画で強烈な印象を残す芸術家だ。
映画『ジャコメッティ 最後の肖像』はロードの回顧録『ジャコメッティの肖像』(みすず書房)を性格俳優のスタンリー・トゥッチが脚色、監督した知的コメディ。ジャコメッティの大ファンだった監督が構想10年の末、完成させた。
映画『ジャコメッティ 最後の肖像』はロードの回顧録『ジャコメッティの肖像』(みすず書房)を性格俳優のスタンリー・トゥッチが脚色、監督した知的コメディ。ジャコメッティの大ファンだった監督が構想10年の末、完成させた。
映画では「ほんの1、2日だけ」という言葉から気軽に引き受けたロードはすぐに後悔することになる。「肖像画とは決して完成しないものだ」という不吉な言葉を吐きながら絵筆をとるジャコメッティはあっさりと約束を破り、モデルの仕事は「もう1日」「もうちょっと」と引き延ばされる。ロードはニューヨークに残していた恋人に毎日のように電話をかけ、何度も航空券の予約を取り直すはめになった。
ジャコメッティはロードの顔の角度を厳密に調整し、顔にかゆみを感じた彼が思わず顔を掻くと「掻くな!」と怒声を飛ばす。そんな緊張感あるアトリエにジャコメッティより40歳ほど年下の愛人、カロリーヌが乱入すると彼は一転してだらしない笑顔を見せる。彼にはアネットという妻がいたが、二人は妻の目の前で堂々と不倫していた。
アトリエでのジャコメッティは常にしかめっ面でイーゼルに向かい、気に入らない作品は火にくべてしまうなど孤高の芸術家らしい表情を見せる。かと思うと大金の隠し場所を必死になって考えたり、妻にはコート一枚買う金も渡さないなど、俗で“イヤなヤツ”な一面も。映画はそんなジャコメッティと、彼に振り回されるロードらをコミカルに描く。
ロードは帰りたくても帰れない。ジャコメッティから聞くピカソの裏話や、肖像画の行方が気になってしかたないのだ。結局、ジャコメッティとロードは18回にわたって肖像画制作に挑む。ロードは1966年のジャコメッティの死後、彼の伝記を書き始めたが、それが出版されたのは1986年のことだった。
監督のスタンリー・トゥッチはジャコメッティを「僕にとって完璧なアーティスト」だという。
「妥協することなく制作を続け、唯一無二の絵画や彫刻を生み出した。とくに彫刻は現代的でありながら伝統的、深淵であり、見ていて目が離せない。彼について書かれた本もずいぶん読んでいるけれど、彼のものづくりのプロセスや生き方、知性、ユーモア、あらゆるものが興味深い」
ジャコメッティと対峙するジャーナリスト、ジェイムズ・ロードについては自らの経験から次のように語る。
「僕も大勢のジャーナリストに囲まれて3分間だけ取材を受けた経験があるけれど、そうなるともう何も伝えられないよね。それを考えるとこの映画は『沈黙の中でのコミュニケーション』を描いたといえるかもしれない」
「妥協することなく制作を続け、唯一無二の絵画や彫刻を生み出した。とくに彫刻は現代的でありながら伝統的、深淵であり、見ていて目が離せない。彼について書かれた本もずいぶん読んでいるけれど、彼のものづくりのプロセスや生き方、知性、ユーモア、あらゆるものが興味深い」
ジャコメッティと対峙するジャーナリスト、ジェイムズ・ロードについては自らの経験から次のように語る。
「僕も大勢のジャーナリストに囲まれて3分間だけ取材を受けた経験があるけれど、そうなるともう何も伝えられないよね。それを考えるとこの映画は『沈黙の中でのコミュニケーション』を描いたといえるかもしれない」
人間は誰しもいくばくかの狂気を抱えているものだけれど、ジャコメッティのそれは一際強烈だ。トゥッチはその表裏をユーモラスに、かつ暖かな視線で描き出す。あの哲学的な作品はこうして生み出されていたのか。そう思うとジャコメッティという芸術家がますますわからなくなる。
『ジャコメッティ 最後の肖像』予告編
監督 スタンリー・トゥッチ
1960年生まれ。父は美術教師でアーティスト、母は作家。舞台・映画俳優として活躍、演出も手がける。『Shall we ダンス?』のハリウッドリメイク版『Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス?』(04/ピーター・チェルソム監督)では、竹中直人が演じたラテン好きのスキンヘッドを熱演した。96年、『シェフとギャルソン、リストランテの夜』(キャンベル・スコットと共同監督)で監督デビュー。以後、本作も含めて6作品の監督を務める。
1960年生まれ。父は美術教師でアーティスト、母は作家。舞台・映画俳優として活躍、演出も手がける。『Shall we ダンス?』のハリウッドリメイク版『Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス?』(04/ピーター・チェルソム監督)では、竹中直人が演じたラテン好きのスキンヘッドを熱演した。96年、『シェフとギャルソン、リストランテの夜』(キャンベル・スコットと共同監督)で監督デビュー。以後、本作も含めて6作品の監督を務める。
『ジャコメッティ 最後の肖像』
2018年1月5日よりTOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー。
監督・脚本:スタンリー・トゥッチ、出演:ジェフリー・ラッシュ、アーミー・ハマー、クレマンス・ポエジー、トニー・シャルーブ、シルヴィー・テステュー。90分。配給:キノフィルムズ。(c) Final Portrait Commissioning Limited