菊地成孔が語る! 映画監督アニエス・ヴァルダ。 | カーサ ブルータス Casa BRUTUS

菊地成孔が語る! 映画監督アニエス・ヴァルダ。

『カーサ ブルータス』2020年1月号より

アニエス・ヴァルダの未公開作がついに上映! 菊地成孔が観た、誰も知らないヴァルダとは。

『アニエスによるヴァルダ』60余年のキャリアを総括する、自分自身によるドキュメンタリー。彼女の創作の熱意や秘密に迫る。(c) 2019 Cine Tamaris—Arte France—HBB26—Scarlett Production—MK2 films
『アニエスによるヴァルダ』60余年のキャリアを総括する、自分自身によるドキュメンタリー。彼女の創作の熱意や秘密に迫る。(c) 2019 Cine Tamaris—Arte France—HBB26—Scarlett Production—MK2 films
去る3月にこの世を去った映画監督アニエス・ヴァルダ。「ヌーヴェルヴァーグの祖母」と呼ばれ、ジャック・ドゥミの妻としても有名な彼女の、最新作を含む3作品が待望の日本初公開。映画批評の分野でも活躍する菊地さんに、見どころをお聞きしました。

Q 今回この3本をご覧になって、率直な感想はいかがですか?

彼女への印象が完全に変わりましたね。これまで代表作の『幸福』と『5時から7時までのクレオ』くらいしか観ていませんでしたが、濃密なメロドラマを撮る監督かつ、ジャック・ドゥミの妻という、紋切り型の印象しかなくて。でもこの3本を観終わって、何て軽やかかつ知的に映画を作る人なんだろうと驚き、感動しました。
『ラ・ポワント・クールト』長編デビュー作。南仏の漁村を舞台に繰り広げられる人間模様を、独自の視点で切り取った傑作。(c) 1994 AGNES VARDA ET ENFANTS
『ラ・ポワント・クールト』長編デビュー作。南仏の漁村を舞台に繰り広げられる人間模様を、独自の視点で切り取った傑作。(c) 1994 AGNES VARDA ET ENFANTS
Q どういった点に、驚きや感動を感じたのでしょうか。

『ラ・ポワント・クールト』には絵画的な構図があったり、画面が静止するシーンがあったりと、かなり技巧的なんですね。しかもストーリーはというと、2つの話が並行して一向に交わらずに終わってて。また『ダゲール街の人々』では、人物関係がなかなか分からないような編集が施されています。そうした映画を脱構築するような監督だったというのが驚きで。『アニエスによるヴァルダ』なんて、講義のシーンから始まったのに、いつの間にか外に飛び出して、結局講義に戻らず終いですし(笑)。
『ダゲール街の人々』自らも長く住んだパリのダゲール通りで暮らす人々の様子を撮影したドキュメンタリー。倒錯した構成も注目。(c) 1994 agnès varda et enfants
『ダゲール街の人々』自らも長く住んだパリのダゲール通りで暮らす人々の様子を撮影したドキュメンタリー。倒錯した構成も注目。(c) 1994 agnès varda et enfants
Q ヴァルダのこうした脱構築は、無意識でやっているんでしょうか。

体質化している気もしつつ、一方で意識的にやっているような気もして。なぜかというと羽目を外しているようで、全く破綻していないんですよね。すべてが律せられていて映画に混乱した印象を受けないんです。とにかく映像や編集がクールで、観客を茶目っ気たっぷりに揺さぶりながら、それを楽しんでいる知的さを感じました。

Q この特集上映は、ヴァルダの知られざる魅力に出会える良い機会になりそうですね。

これまでのステレオタイプなヴァルダのイメージを、軽やかに超えていきますよね。むしろ鑑賞後はドゥミの方が可愛く思えてきます(笑)。知的でユーモアがあり、自由に映画を撮るヴァルダに出会えるこの特集は、すべての映画ファンが観るべき内容ですね。
アニエス・ヴァルダ
映画監督。1928年生まれ。1954年『ラ・ポワント・クールト』で長編映画デビュー。2018年にはアカデミー賞の名誉賞を受賞。2019年3月に、90歳で永眠。(c) cine tamaris

『アニエス・ヴァルダをもっと知るための3本の映画』

最新作『アニエスによるヴァルダ』を含む、日本未公開作3本を一挙公開する特集上映。12月21日より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国にて順次公開。

菊地成孔

ミュージシャン/文筆家。映画批評の本も執筆。現在は自身主宰のバンドDC/PRGやスパンクハッピーのライブ真っ最中。

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